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2009年2月 Archive

未だ独立ならず

『月刊日本』2009年3月号 羅針盤

 上野の東京国立博物館で、同博物館・慶應義塾大学・フジサンケイグループの主催による、「未来をひらく福沢諭吉展」が開催されている。この展覧会は、慶應大学の淵源である慶應義塾が創設された安政五年(一八五八)から、昨年で一五〇年になることを記念して、開かれているものであるが、主催者にフジサンケイグループが入っているのは、福沢の起こした時事新報を産経新聞社が引き継いでいるからのようである。
 私も過日一見してみたが、最も印象に残ったのは、やはり例の「独立自尊」という四文字熟語である。この言葉は諭吉のものとして極めて有名であるが、本格的に展開されたのは没年の一年前、明治三十三年の「修身要領」においてであるから、諭吉としては最末期の考え方ということになる。この要領は、全二十九条に及ぶかなり長文のものであるが、独立自尊を基本理念としてまとめられている。ただしすでに明治三年の「中津留別之書」には、これも有名な「一身独立して一家独立し、一家独立して一国独立し、一国独立して天下も独立すべし」との文言があるから、「独立」こそ、福沢諭吉の思想を貫く根本概念であると考えて良いだろう。私が「独立自尊」に心を惹かれたのは、これこそ今の日本人が最も喪失してしまった精神、現在最も必要な精神だと思うからである。すなわち独立意識であり、自尊心である。

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