『月刊日本』2017年12月号 酒井信彦の偽善主義を斬る 2017年11月22日
11月5日、アメリカのトランプ大統領が来日した。その途中、ハワイで「リメンバー・パールハーバー」とツイッターに投稿し、東京には横田基地に到着し演説した。これはいまだに東京裁判史観を継続させ、日本がアメリカの巨大基地が存在する、アメリカの軍事的植民地であるという現実を、再確認する行為・儀式であったのであろう。
日米首脳会談は6日に行われ、その内容は7日の朝刊に詳しく掲載されている。朝日の紙面第2面「時時刻刻」欄の大きな横見出しには、「日米『完全一致』演出」とあるが、この記事のデジタル版の見出しは「トランプ氏、米製武器「売り込み」突出 安倍首相は即応」となっているのが、興味深い。これが朝日の最も注目する点なわけである。
その武器売り込みの部分は、「だが、日本政府関係者の予想を超えて、トランプ氏の言動が記者会見で突出したのは、米国製防衛装備品の『売り込み』だった。」「『非常に重要なのは、首相は(米国から)膨大な量の兵器を買うことだ。そうすべきだ。我々は世界最高の兵器をつくっている』。トランプ氏は米紙記者が尋ねた日本のミサイル防衛の質問に対して、一気に話し始めた。具体的な防衛装備品名まで言及し、日本がこれらを買うことで『我々に多くの仕事を、日本には多くの安全をつくる』と述べた。」とある。これに対して安倍首相は、直ちに同意したという。
同日の天声人語も、この武器購入問題を取り上げ、トランプ大統領は「兵器のセールスマン」であり、その言い方は「あからさま」であり、「北朝鮮への対応とビジネスとの線引きは意外とあいまいかもしれない」と述べている。
ずいぶんと寝ぼけたことを言うものである。軍事・防衛問題と、商売とは「あいまい」どころか、完全にリンクしているのである。ましてやビジネスマンが、世界最大の軍事大国の最高指揮官になったトランプ大統領においては、当然すぎるほど当然のことにすぎない。日米の貿易不均衡を非難し、アメリカ・ファーストを唱える大統領が、武器輸出の促進に目を付けないはずがない。現在は首脳の外遊に企業家が同道して、商品を売りこむのが普通の時代になっている。西欧のドイツやフランスなど、中共訪問でこれを行い、大いに爆買いしてもらっている。
朝日は安倍首相が直ちに同意したことに批判的であるが、日本はアメリカの要求を拒否できるのか。そもそもわが日本は、まともな独立国、主権国家ではない。軍事的主権を完全に喪失し、経済主権なども制限された、アメリカの保護国、正確には「被保護国」である。
すなわち4月28日は主権回復記念日ではなく、主権回復を祈念するべき「主権回復祈念日」である。それは沖縄にとっての屈辱の日ではなく、日本全土にとって屈辱の日である。その意味で沖縄の米軍基地だけを問題にすることは、日本全土がアメリカの軍事的植民地であるという、冷厳な事実を、却って隠蔽する行為となっている。
現在、安倍政権になって対米従属の程度が深まったと批判する人間が存在するが、従属の進化はあまりにも当然のことである。その理由はなぜかと言えば、極めて単純で、中共の軍事的脅威が格段に深まったからである。侵略国家として誕生した中共は、経済的・軍事的に急成長して、対外的侵略に乗り出した。我が国の固有の領土である尖閣諸島を、核心的利益だと称して、侵略宣言を行っている。危機の状況が高まれば、依存度が深まり、用心棒代が高騰するのも、理の当然に過ぎない。
そもそもの根本問題は、日本の側にある。それは言うまでもなく、自国を自分で守る気力を日本人が喪失していることである。朝日新聞などは、戦後の日本は平和国家であり、平和国家のブランドを守れと叫ぶが、戦後において戦争をやり続けてきた、軍事超大国のアメリカに、一貫して巨大軍事基地を提供してきた日本が、平和国家であるはずがない。真の平和国家とは、懸命の軍事的努力によって、侵略されることのなかった、スイスのような国を言うのである。戦後、日本も誤解して東洋のスイスを目指した時期もあったらしいが、今は全く話題にならない。
これだけ中共・北朝鮮の軍事的脅威が明確になっても、いまだに全くリアリティーなき平和主義が生息しているが、それに比べれば戦争中の軍国主義の方が、はるかに理性的でリーズナブルである。日本の白痴的平和主義こそ、世界中から軽蔑されているに違いないのだ。こんな体たらくでは、アメリカに楯突くことなどできるわけがない。民主党政権の時に、明確に経験したことである。たとえ共産党が政権をとっても、不可能に決まっている。
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← 酒井信彦 著『虐日偽善に狂う朝日新聞―偏見と差別の朝日的思考と精神構造』(日新報道 2013/08出版)
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