『月刊日本』2018年3月号 酒井信彦の偽善主義を斬る 2018年2月22日
1月25日の新聞各紙の朝刊には(毎日のみは、なぜか夕刊)、中共の中国科学院の研究チームが、クローン猿を生み出すことに成功したニュースが掲載されている。それによると24日付のアメリカの科学誌の電子版で発表されたもので、カニクイザルの2匹のメスであり、写真も載っている。
そのやり方は朝日によると、「カニクイザルの胎児の体細胞から遺伝情報が入った核を取り出し、あらかじめ核を抜いた別のメスの未受精卵に移植。成長を促す特殊な処理を施して代理母となる21匹のメスの子宮に移したところ、6匹が妊娠し、そのうち2匹が生まれた」とある。体細胞クローンは、1996年、イギリスで羊の「ドリー」で成功し、その後マウス、牛、豚などで行われてきたが、今回特に注目されるのは、霊長類では初めてだからである。つまり人間にも応用できる可能性があるわけだが、現在は多くの国において法律で禁じられているという。
クローン猿のニュースについての反応は、朝日は翌日の天声人語で、ドリーほどの衝撃はないとしながら、クローン人間の可能性には注目し、とくに「ただ成功したのが中国というのは気になる。独自の尺度で物事を進める国である」と述べているのには、ずいぶん忖度した表現となっている。隷中朝日ですら、危惧を表明せざるを得なかったのだが、中共は「独自の尺度」どころか、わがまま勝手にやりたい放題をしている、完全な悪逆非道国家ではないか。
中共は科学技術の進歩を、その強権支配のために、徹底的に活用している国家である。顔認証システムによって、買い物の支払いのキャッシュレス化が進んでいると言うが、このシステムはチベットやウイグルの独立運動や民衆の抗議行動を弾圧するために、開発し発展させてきたものに違いない。また宇宙開発においては、国際宇宙ステーションには参加しないで、独自に運営しているが、これはあくまでも軍事目的の利用を目指したものであり、宇宙軍の基地にするためのものであるのは、あまりも明らかだ。
ところでクローン猿についての、新聞の反応としては、産経の産経抄の発言が興味深かった。それは昨年ノーベル文学賞を受賞した、カズオ・イシグロに言及したものである。イシグロの小説に『わたしを離さないで』という作品があるが、これはクローン人間の子どもたちの物語で、彼らは臓器移植の提供者として、計画的につくられたものであった。
産経抄は、「クローン人間作りは、倫理と科学的な安全性の両面から、欧米諸国や日本では禁じられている。ただ科学技術の分野でも世界の覇権を狙う中国で、研究の暴走を押しとどめられるか、はなはだ疑問である」と指摘。当然の疑問だろう。
報道では、研究の当事者は、絶対に人間ではやらないと言っているようだが、絶対にやるに違いない。中共はかつて絶対に覇権を求めないと言っていたが、現在は覇権の追及に狂奔しているのだから。クローン猿は、「中中」・「華華」と名付けられている。併せて「中華」である。憲法に記載されることになった、習近平思想の「中華民族の偉大な復興」と言う「中華の夢」を、露骨なまでに体現している。
では中共は、臓器移植のためにクローン人間を作るだろうか。そんな必要は全くないだろう。すでに現在、中共は飛びぬけた臓器移植大国であるが、臓器提供者には全く不自由していない。犯罪者の臓器を、いくらでも調達できるからである。それは現実に存在する甚だしい人権侵害問題であるにも拘わらず、驚くほど無視されている。日本でも、『中国の移植犯罪 国家による臓器狩り』(2013年、自由社)、『中国臓器狩り』(2013年、アスペクト)と言った著作が出版されているが、ほとんど注目されていない。
最近、中共の臓器移植問題を憂慮した日本人が、この問題に取り組む組織をたちあげた。それが「中国における臓器移植を考える会」である。1月23日に、参議院議員会館で発足式が行われた。24日の産経新聞によると、「都内で開かれた発足会では、この問題を調査したカナダのデービッド・キルガー元アジア太平洋担当相とデービッド・マタス弁護士が講演。中国で公式見解の10倍の臓器移植が行われ、臓器の出所が少数民族や政治犯であること、中国共産党主導で行われていることを突き止めたと話した」とある。
しかこの発足会を報道したのは、産経新聞のみであった。その外には、14日に東京新聞が首都圏版で予告的に取り上げたが、朝日・毎日・読売・日経の各紙は、完全に沈黙を決め込んだようである。日本の新聞の、犯罪的なまでの「シナ・ポチ」ぶりが良く表れている。
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