- 2016年2月22日 09:00
- 月刊日本 羅針盤
『月刊日本』2016年3月号 羅針盤 2016年2月22日
1月下旬になって、椿貞良という人物が昨年12月10日に亡くなっていたことが報じられた。21日の朝日の記事によると、「椿貞良(つばき・さだよし=元テレビ朝日取締役報道局長)12月10日死去、79歳。葬儀はすでに営まれた。
1960年、日本教育テレビ(現テレビ朝日)に入社。北京支局長、報道局長などを歴任。取締役報道局長だった93年に、日本民間放送連盟の会合で、総選挙報道について『反自民の連立政権を成立させる手助けになるような報道をしようではないか。指示ではないが、そういう考え方を話した』などと発言し、責任をとって辞任。国会に証人喚問され、テレビ報道の公平公正が問われるなど波紋を呼んだ。この『椿発言』問題が、放送倫理・番組向上機構(BPO)の前身である、放送と人権等権利に関する委員会機構(BRO)設立の遠因になった」とある。
権力とメディアの関係が、頻りに話題となっている今日この頃なのだから、BPO設立のきっかけとなったこの人物の死去に際しては、もっと大きく取り上げられるべきなのに、実に簡略な報道しかなされなかった。メディアは、自己にとって都合の良い事例の場合は、鉦や太鼓で大騒ぎするくせに、都合の悪い場合は、一転して完全に無視するか、地味な扱いで済ませるのである。
マスコミ・メディアの力で、政権交代を実現するという企みは、この93年の細川政権を成立させた時だけでなく、09年に鳩山民主党政権が成立した時にも行われていた。そしてさらに今年の参議院選挙では、衆参同一選挙なるのか否かはわからないが、夢よ三度とばかりに、メディアのかなりの部分は、明らかに野党側の応援を露骨に展開している。 その時に彼らが特に目をつけているのが、18歳から選挙権が与えられた若者層であり、これに対する大々的な宣伝攻勢が行われている。
朝日新聞は、連日のようにその方針に沿った記事で埋め尽くされた状況と言える。例えば正月早々「18歳をあるく」と題する、18歳を様々な角度から取り上げた大型記事を9日まで連載したが、その元日一面のリードには「今の18歳は、どんな人たちなのか。(中略)何を学び、どう将来を切り開こうとしているのか。この夏には、参議院選挙で初めて投票する。」と、企画の真の目的を正直に吐露している。
実はこの傾向はすでに昨年の安保法制反対運動の中で表れており、その成立後に一層顕著になっていた。それは「シールズ」なる学生組織に対する、応援・宣伝報道が典型的なものである。
ところで、現在朝日による紙面を利用した、若者への具体的な政治教育の一大企画が開始されている。「18・私たちも投票します」というもので、昨年12月22日より始まった。「来年の参議院選から、18、19歳の人も選挙権を得る。『私たちも初めて投票します』。こう意気込むのは、AKB48の向井地美音(17)さん、加藤玲奈(18)さん、茂木忍(18)さん。3人はこれから選挙まで半年間にわたり、憲法学者の木村草太さん、ジャーナリストの津田大介さんとともに、政治参加の意味や大切さを考えていく」のだという。
生徒として若者になじみ深い、アイドル・タレントを起用したことが、この企画の最大のポイントなのである。内容はその講師の顔ぶれから言って、かなり偏向したものになることは容易に予想される。
この企みは教育欄でも展開され、長期連載されている「いま子どもたちは」では、2月4日から四回に渡って、「政治って?」と題してこの問題を取り上げ、初回には特定秘密保護法・安保法制反対デモに参加した都立高校の女子学生を大きく紹介している。
シールズ支援をもっと露骨に表明した記事としては、2月5日のオピニオン欄の「寂聴╳SEALDs」がある。瀬戸内寂聴とシールズの二十歳前後の女性三人との座談会で、仲間内のデモ賛美の放談なのであるが、ここでも女性を揃えたところがミソであるらしい。それにしても、自分たちだけが民主主義だと言い張る独善性には、何時ものことながら呆れてしまう。
この若者に対して、反政府運動に立ち上がれと煽動する報道ぶりは、大学紛争時代に「朝日ジャーナル」を中心として、極左学生を熱烈に支援した前例を彷彿とさせるものである。一昨年の謝罪で多様な意見を取り上げると言ったのとは全く逆に、その恨みをはらさんと、偏向報道は一層激化しているのである。
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