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歴史問題の害毒

『月刊日本』2016年7月号 羅針盤 2016年6月22日

今年は二〇一六年。ということは、一九八六年の第二次教科書事件から、丸々三十年にもなる。第一次教科書事件はその四年前だから、歴史問題で我が国はすでに、戦後七十年の半分近くも苦しめられ続けているわけだ。しかもそれは七十年談話・日韓慰安婦合意などでは全く解決せず、今後も日本民族の命取りになりかねない危険性をはらんでいる。

そもそも歴史問題は、戦後の東京裁判史観が、一貫して作用し続けてきたからではない。それは一九八二年の第一次教科書事件を契機に、中共・韓国によって、日本罪悪史観として再構築されたものである。

第一次教科書事件では、日本の中学歴史教科書の検定において、「侵略」表記が「進出」に書き換えさせられたと、日本のマスコミが報道し、それに中韓両国が抗議し、日本政府が外交圧力に屈服してしまった。つまりそのメカニズムは、日本マスコミの報道⇒中韓政府の抗議⇒日本政府の屈服という連鎖となる。私はこれを「歴史問題の三段跳び」と言っているが、つまり発端と末端は、日本人が演じているわけである。

第一次教科書事件では、鈴木内閣の宮沢官房長官は、全くの誤報だったにも拘わらず、近隣諸国条項を作ってしまった。何事も最初が肝心であるのに、ここで根本的な誤りを犯した。続く第二次教科書事件では、保守派の人々による高校日本史教科書が、反動的だと日本のマスコミが騒ぎ、中韓両国が抗議し、時の中曽根総理大臣が、検定に介入して書きなおさせた。政治権力の教科書への明白な介入であったが、教科書検定そのものに反対していた人間が、それを容認したのは、完全に彼らの論理の破たんを示すものだった。しかしこの事実は、今日でも全く理解されていない。

この年は歴史問題としてもう一つ靖国参拝中止問題が起こる。前年中曽根首相が、八月十五日の公式参拝を開始したが、これに中共が抗議を行い、この年は中止してしまったのである。のちに首相は回顧して、中止の理由を中共の胡耀邦総書記を救うためだったと説明したが、翌年胡総書記は簡単に追放されてしまった。中曽根総理の独り相撲と言うしかない。ついで藤尾文部大臣が行った、日韓併合に関する雑誌での発言が問題にされ、あくまで辞任を拒否した文相を中曽根総理が罷免した。

九十年代になると慰安婦問題が出てくる。慰安婦問題では、河野談話が注目されるが、やはり最高責任者は時の宮沢総理大臣である。このとき安易に謝罪した行為が、二十数年後の今日まで、すさまじい禍根となっている。

歴史問題といえば、さらに村山談話問題がある。戦後五十年の一九九五年八月、村山総理が「植民地支配と侵略をお詫びする」との談話を出し、後々に大きな影響を与えた。この村山首相は自民総幹部が、政権奪還のために担ぎだしたものであり、本来社会党の人間に、首相の地位を利用して、まんまとしてやられてしまったのである。この自民党幹部たちの責任もきわめて重い。

歴史問題の害毒はまだまだ我が国に、被害を及ぼし続けるだろうが、その被害を少しでも少なくするためには、中韓両国による精神侵略という、歴史問題の本質を正確に理解しなければならない。そのためには歴史的な経過をきちんと回顧することが必要であるが、この重要な作業はほとんどなされていない。

上述した簡単な作業から判明するのは、歴史問題は発端のマスコミ報道に責任があるのはもちろんだが、国家権力、政府・自民党が具体的措置を下したのであり、その罪の重さは真に甚大である。とくに宮沢・中曽根両首相の犯した罪は、限りなく重く、万死に当たると言っても決して過言ではない。本来ならその罪が徹底的に告発・糾弾されなければならないのに、全く行われていないのだ。それを行うべきは、権力批判が使命だと頻りに言うマスコミのはずであるが、マスコミはそもそも歴史問題の最初の火付け人であるから、それを行うはずがない。歴史問題の不当性を追及する保守の側は、友好関係にある、自民党政権の責任を追及することはやらない。

かくして日本歴史上の巨大な失政である歴史問題において、自民党政権が犯した過ちは、回顧し反省されることなく、放置されたままである。宮沢元総理はもはやこの世にいない。責任を追及されることなくあの世に行ってしまった。中曾根元総理はいまだ長寿を保っているのだから、歴史問題で犯した重大な過ちを、存命中に国民に謝罪すべきである。

 

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sakai-book01.jpg ← 酒井信彦 著『虐日偽善に狂う朝日新聞―偏見と差別の朝日的思考と精神構造』(日新報道 2013/08出版)


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