『月刊日本』2018年7月号 酒井信彦の偽善主義を斬る 2018年6月22日
5月21日、谷口真由美・大阪国際大准教授が代表の、「メディアにおけるセクハラを考える会」が、日本外国特派員協会で記者会見して、メディア関係者35人から調査した150のセクハラ事例を発表した。翌22日の朝刊で新聞各紙が取り上げているが、その日の同じ紙面には、結局辞任に追い込まれた、狛江市長のセクハラ問題が、写真入りで大きく取り上げられているのに、考える会の記事はずっと小さい。問題の重大性から言えば、東京都の一小規模市の首長の問題より、メディア全体に及ぶセクハラ疑惑であるのだから、はるかに大きいはずである。そうしないのは、メディア自身に直接的にかかわる問題だからである。
ところで各紙の記述は同一ではないが、朝日新聞の特異性がひときわ目に付いた。それは加害者の職業・身分についての部分で、毎日は「セクハラを受けた相手は社内の上司や先輩が40%と最多。出演タレントや他社の記者など社外関係者も29%に上った。警察・検察関係者からの被害は12%、国会議員ら政治関係者が11%、公務員が8%だった」とある。この数字は項目に異同があるが、読売・東京も紹介している。
では丸山ひかり記者による朝日の記事は、これをどう説明しているかというと、「加害者の内訳は、警察・検察関係者や議員などの取材対象者のほか、上司や先輩らも少なくなかった。セクハラを職場で相談しても、適切に対応されなかったケースがほとんどだったという」とあるだけで、具体的な%を示さず、社内が最多である事実を隠蔽しているし、その次はメディア関係者であることも、言及していない。
ところでこの記事の後半では、同じセクハラに関する調査として、5月17日に「性暴力と報道対話の会」によるアンケート結果も紹介している。それは「メディア関係者の20代~60代の男女107人から回答を得た。セクハラ被害の経験があったと答えたのは102人で、全員女性。加害者のほとんどは目上の人だった」とある。重要なのはそれに続く部分で、「複数回答で内訳を尋ねると『取材先や取引先』(74人)が最も多かったが、『上司』(44人)や『先輩』(35人)と答えた人もいた。」と言うのである。上司74人と先輩35人を合わせれば79人となり、やはり社内が最多なのである。
またこの記事の末尾には、「性暴力と報道対話の会」が、「『報じる側が足場の人権問題にもっと目を向ける必要がある』として、日本新聞協会と日本民間放送連盟に対し、実態調査や対策を示すことなどを求める要望書を提出した」とある。さらに5月24日には、新聞労連が日本新聞協会に、同様な要望をしている。
そもそもこのセクハラ問題は、トランプ大統領も関係して、かなり以前からアメリカ発で世界的に話題になっていたが、日本では元TBS記者の問題から、本格化したものであろう。その被害者が、「私も」と実名で名乗り出て、加害者が安倍首相の懇意の人物と言うことで、とくに朝日新聞はかなり力を入れて、「#MeToo」のタイトルのもとに大量な記事を報道してきた。さらに財務事務次官のセクハラ問題も、モリカケ問題に連動させることによって、安倍叩きの目的でキャンペーン報道を行ってきた。要するに両方とも、政権打倒と言う極めて政治的な目的のために、女性の人権問題を利用してきたわけである。
さんざん政治的に利用してきたセクハラ問題が、それを非難・攻撃することに熱中する、メディア・マスコミ自身に、とうとう降りかかってきたのは、まことに皮肉である。新聞協会や民放連は、この調査結果にいかに答えるのであろうか。
しかし「メディアにおけるセクハラを考える会」や「性暴力と報道対話の会」による、調査結果の発表も随分と生ぬるいものである。被害者の名前はともかく、内部的なセクハラ問題が発生した報道機関の実態と名称くらいは、この際堂々と発表するべきである。本当ならば、被害者自身が名乗る出るべきである。それこそが「私も」「#MeToo」ではないのか。ところが財務次官を辞任させたテレビ朝日の記者すら名乗り出ていない。これはこの二つの会や、新聞労連自身が、「考える会」の代表が谷口真由美であることから明らかなように、結局マスコミ村、メディア村のお仲間であって、この問題でメディアをどこまで追及できるのか、まことに疑わしい。
その「考える会」の調査ですら、社内・社外併せて約70%が、世のセクハラを糾弾してやまない、メディア内部の犯行であるのだ。日本のメディアは、日本のあらゆる領域の中でも最悪の、根底から腐敗堕落した世界である。これこそ現代日本の最大の災厄である。
← 酒井信彦 著『虐日偽善に狂う朝日新聞―偏見と差別の朝日的思考と精神構造』(日新報道 2013/08出版)
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