『月刊日本』2019年1月号 酒井信彦の偽善主義を斬る 2018年12月22日
11月８日、テレビ朝日は９日に予定されていた、BTS（防弾少年団）のミュージックステーションへの出演を、急遽中止すると発表した。その理由はメンバーが過去に原爆のキノコ雲をプリントしたTシャツを着ていたためであり、以前からネットなどで問題になっていたが、所属レコード会社と協議して決めたものだという。朝日新聞は。９日夕刊でこの問題を12面の肩で大きく報道しており、Tシャツのカラー写真も載せられている。さらに朝日は10日の夕刊で、Tシャツをデザインした会社の人間が、韓国のメディアに、日本を貶める意図は全くなかったと弁明したと、小さく載せている。
問題はそれで終わらなかった。BTSは、ナチス関連の記章付きの帽子や旗を使用したことが発覚し、11日に在米ユダヤ団体サイモン・ウィーゼンタール・センターが、批難する事態となった。産経の共同電によれば、「同センターのエーブラハム・クーパー副所長は、『原爆被害者をあざけるTシャツの着用は、過去をあざけるこのグループの最新の事例にすぎない』と指摘。『日本の人々とナチスの被害者に謝罪すべきだ』と強調するとともに、BTSの所属会社にも公式な謝罪を求めた」とあり、これは13日に報じられた。
ところが朝日はこのサイモン・ウィーゼンタール・センターの抗議を、他紙と異なって全く報道しなかった。それどころか13日には、BTS問題が韓国では、最近の歴史問題などに関連して、反発的に受け取られていることを、ことさら報じている。
同センターの抗議に対しては、BTSの所属事務所が謝罪を表明して、これは14日の朝刊に出ている。共同電による産経の記事では、「所属事務所は13日、メンバーが過去に原爆のきのこ雲がプリントされたTシャツを着用したり、ナチス親衛隊の記章をあしらった帽子をかぶったりしたことについて、不快感を与えたとして謝罪を表明した」「ナチスに絡み、BTSを非難した米ユダヤ系団体『サイモン・ウィーゼンタール・センター』に謝罪の書簡を送ったことも明らかにした」とある。
今度は朝日もこの謝罪については載せているが、「所属事務所が13日、公式ツイッターなどで、原爆被害者やナチスの被害者たちを『意図しないまま傷つけた』などとして、『心から謝罪します』とする声明を出した」とあるけれど、ここでもサイモン・ウィーゼンタール・センターの名前は全く出てこない。意図的に隠ぺいしているとしか、考えられない。
実は新聞紙面には掲載されなかった、サイモン・ウィーゼンタール・センターの最初の抗議は、朝日のデジタル版には12日に出ているのである。それは高田正幸記者によるものであるが、ただし産経にあった「日本の人々とナチスの被害者に謝罪すべきだ」の部分はない。また謝罪回答については、長文の事務所の声明全文が、韓国語から翻訳され、14日のデジタル版に掲載されている。
以上から判明することは、朝日はBTSの犯罪的行為をできるだけ軽く見せようと、懸命に擁護していることであり、そのために紙面にはユダヤ団体、サイモン・ウィーゼンタール・センターの名前は、決して出してはならなかったのである。
15日の天声人語では、原爆Tシャツについて、「愛国、解放、韓国を意味する英語も一緒に書かれており、読みようによっては原爆投下を正当化するようにも解釈できる」「『悪気はないのだから』との声もあるかもしれない。しかし、ここは目くじらを立てたい」と、極めて生温く批判するが、末尾では「我が身を振り返るきっかけにもしたい」と見事に反転してすり替えるのである。
朝日によるBTS擁護の姿勢は明らかだが、その決定版が11月16日ニュースQ３の「Tシャツ・歌詞・・原爆投下巡る海外との溝」である。原爆Tシャツに関して、三つの論点で、BTSを懸命に擁護する。まず中韓では原爆が戦争を終わらせたとして、絶対悪とは考えない。次いで、タキ・タキ・ルンバのように、欧米にも原爆を揶揄する考え方はある。そして「米国では、電子レンジで温めることを『核兵器』という言葉から派生した『nuke』と表現するほどだ。シカゴは継続的な核分裂反応の実験に初めて成功した場所で、その75周年を記念し、花火を打ち上げるイベントが昨年、開かれた」とまで言うのである。
常日頃、情緒的な反核報道に熱中する朝日が、BTS擁護のためには、ここまで被爆者を貶める言論を展開するのである。さらに末尾で日本原水爆被害者団体協議会次長に、「反省を口にしていれば理解しあえるはず」と、許容するような発言を行わせている。被爆者ならずとも反核主義者なら、この記事に対して厳しく抗議すべきだろう。
← 酒井信彦 著『虐日偽善に狂う朝日新聞―偏見と差別の朝日的思考と精神構造』（日新報道 2013/08出版）
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