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日米経済戦争の戦死者

『月刊日本』2019年2月号 酒井信彦の偽善主義を斬る 2019年1月22日

 天皇陛下が12月20日に行われた最後の記者会見の内容が、お誕生日を前にして公表され、23日の新聞などで報道されている。そこでは天皇陛下が、極めて感情的に語られたのが印象的であった。内容的に注目されたのは、「平成の時代には戦争がなくて安堵した」という部分で、朝日新聞一面トップの見出しにもなっているし、同紙の皇室記者・岩井克己氏は最も強烈だったと評している。それは以下の御述懐である。

 「そうした中で平成の時代に入り、戦後50年、60年、70年の節目の年を迎えました。先の大戦で多くの人命が失われ、また、我が国の戦後の平和と繁栄が、このような多くの犠牲と国民のたゆみない努力によって築かれたものであることを忘れず、戦後生まれの人々にもこのことを正しく伝えていくことが大切であると思ってきました。平成が戦争のない時代として終わろうとしていることに、心から安堵しています。」しかし、この「戦争のない時代」というお言葉は、平成時代を正確に表現しているだろうか。私は甚だ疑問に考えるものである。

 産経新聞の1月1日の1面、乾正人・論説委員長による年頭論説は、「さらば、『敗北』の時代よ」と題されている。それは次のように始まる。「平成は『敗北』の時代だったな。年の瀬に訪ねたある財界人の言葉に、平成の30年間をボーッと生きてきた私は、ハンマーで殴られたような衝撃を受けた」。

 更に「平成23年の東日本大震災、7年の阪神大震災と地下鉄サリン事件という大きな厄災に見舞われたとはいえ、日本はおおむね『平』和で、バブル時代の狂騒を経て『成』熟した社会になったなぁ、と勝手に総括していたのである。」と言う。

 そして「しかし、数字は平成日本の『敗北』を冷酷に物語っている。」と、平成元年には世界に占める日本のGDPはアメリカ28%に次ぐ15%だったが、現在はアメリカ25%に対して6%になってしまった。30年前、世界上位50社中に日本は32社あったが、今はトヨタ一社のみだと説明している。事実、平成が始まって間もなく、1990年代の半ばから、現在に至るまで、二十数年間にわたって、日本のGDPはほとんど成長せずに、停滞を続けている。

 敗北と言うことは、とりもなおさず「戦い」に負けたということである。戦いと言っても実際の戦争ではなく、経済の戦争である。ただしそれは日本とアメリカの経済戦争であるから、日米戦争という基本構造は、大東亜戦争と異ならない。ジャパンバッシングによる、「マネー敗戦」「第二の敗戦」である。

 この中で乾氏が全く言及していないが、私が注目すべきだと考えるのは、日米経済戦争の犠牲者である。平成10(1998)年から日本の自殺者数は、一挙に急増した。それ以前はほとんど二万人台の前半で推移しており、9年には2万4391人だったが、10年には8472人(35%)増加し、3万2863人になったのである。以後、平成23年まで実に14年の間3万人を超過する状態が続き、ピークは15年の3万4427人であった。24年以後は3万人を下回り、減少をつづけて、現在は2万1000人ほどになっている。この期間において、女性の自殺者数はほとんど変動がなく、男性では中高年者が多くを占めているから、増加の原因が経済不況であることは明白である。

 この増加した自殺者こそ、日米経済戦争の戦死者に他ならない。その数字はおそらく10万人をくだらないだろう。一方、平成時代最大の悲劇である、東日本大震災の死者・行方不明者は、2万人に達しない。そしてこの増加自殺者数は、日露戦争の戦死者8万4千人より多い。つまり平成の時代は決して平和な時代ではなく、戦争が存在した時代だと考えるべきなのである。

 ただしこの日米経済戦争が、大東亜戦争と異なるのは、戦わずして敗北したことである。その敗因を乾氏の論説では、財界人の言葉として「危機感の欠如」を紹介し、自身では、戦後の経済復興が成功したことへの慢心、政権が目まぐるしく交代した政治の混迷、そして中共への警戒心なき支援の三つをあげている。

 しかし敗北の根本的原因は、日本がアメリカの被保護国であるという、存在状況にあるのではないのか。国家存立の絶対的要件である防衛を、基本的に依存している御主人様であるアメリカに対して、被保護国・属国である日本が、徹底的に抵抗することなど、できるわけがない。

 日本をアメリカの被保護国にし続けているのは、日本国憲法であるから、結局、日本国憲法が、日米経済戦争の犠牲者を生み出したのである。つまり不況の自殺者は、日本国憲法によって殺されたのである。

 

sakai-book01.jpg ← 酒井信彦 著『虐日偽善に狂う朝日新聞―偏見と差別の朝日的思考と精神構造』(日新報道 2013/08出版)


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