『月刊日本』2020年4月号 酒井信彦の偽善主義を斬る 2020年3月22日
新型肝炎、新型コロナウイルス問題で、日本のみならず世界中で大騒ぎになっている。この問題は最初の段階の無関心・油断と、今度はその反動としての、過度の恐怖心から成り立っていると考えられる。
中国では昨年12月初旬に、コロナウイルスは確認されていた。それが正式に公表されたのが、今年の1月9日のことである。人から人への感染が確認され、武漢を中心にそれが見る間に増大するとともに、死者が続出するようになる。中共政権も対応しきれなくなって、一千万都市・武漢の封鎖に踏み切ったのが、1月23日のことである。
コロナウイルスに対する警戒心は、日本でかなり欠落していた。日本ではすでに最初の感染者が1月15日に発見されており、それは神奈川県在住の30代の男性で、武漢からの帰国者であった。その後に武漢の閉鎖が行われたにもかかわらず、日本の対応は緩慢で、諸外国が中国からの入国禁止・制限を、1月の末に行っていたが、安倍政権は湖北省に限定するだけだった。
しかも1月28日に、奈良の観光バスの運転手の感染が公表され、これが国内での二次感染が分かった最初である。このバスは武漢からの観光客を乗せていた。2月の中旬になると、東京のタクシー運転手の感染が分かった。この運転手は、個人タクシー組合の新年会が、屋形船で行われたものに出席していた。このルートからは、続々と感染者が表れて、特に運転手の義理の母親が、2月13日に死亡した。これが日本人の最初の犠牲者である。
この二つの事例は、ともにすでに1月の中旬に感染が行われていたものであるが、国内での感染については、基本的に深刻な問題として受け取られなかった。それは武漢からの帰国チャーター便の問題とクルーズ船の感染問題に、コロナウイルス問題としての注意が集中してしまったからである。しかし日本での新型肺炎の流行は、根本的に中国観光客の訪日によってもたらされたものなのであるから、市中感染は着々と進行していたはずである。
2月19日に観光庁から1月の訪日外国人の数が発表されたが、中国人は実に92万4800人であった。しかし新聞各紙は春節の期間に、中国人が前年よりコロナウイルス問題の影響で、20%減少したことばかりに注目し、残念がっている。すでに1月の段階で、中国では武漢だけでなく広くコロナウイルスは拡散しており、その人々が大挙来日していたのであるが、中国人観光客が、コロナウイルスをもたらしたという基本的事実を、全く理解していない。
さらに震源地である武漢に限っても、来日者の数字がわかっている。2月1日の朝日新聞朝刊に載った、高田正幸北京特派員の記事では、中国の経済メディア第一財経は、昨年12月30日~1月22日に武漢を出発した飛行機の座席数から予想して、海外への旅行者は、最も多かったのはタイで2万7千人、2位が日本で約1万8千人、3位がシンガポールで約1万1千人と計算している。1月23日に武漢は封鎖されたのであるから、それ以前に大量の感染者が日本に入り込んでいたかは、疑問の余地がない。それが屋形船の感染者や、現在次々と発見されている、多くの感染者の感染源である。
安倍政権はこの問題の対応に緩慢であった。それは基本的に中国への忖度によるものであろう。特に習近平国賓来日にこだわった点が大きいようである。もう一つは中国人旅行者によるインバウンドへの期待のためである。中国からの入国規制が遅れかつ不充分だったことは、国賓来日反対と絡めて、安倍支持の基盤層からの反発を招き、支持率の低下をもたらした。そのような状況に過剰に反応して、首相は周囲の反対も押し切って、小中高校の全国的な閉鎖と言う、極端な政策に踏み出したと考えられる。
つまり極端から極端への変身である。この安倍変身こそ、「アベ政治を許さない」野党や主流メディアの格好の攻撃目標のはずであるが、それが盛り上がらないのは、なぜなのだろうか。それは国会の開会中にもかかわらず、コロナウイルス問題より、桜を見る会を優先させたからだろう。新型肺炎問題に鈍感であったのは、野党も主流メディアも、政権と一向に変わらなかったのである。
1月23日の武漢封鎖は、一千万都市である大都市を封鎖することであるから、これは習主席の直々の命令であり、それまで封鎖しなかったのも主席の判断だということになる。習主席は世界中にコロナウイルスが蔓延することを、明確に承知しながら、大量の中国人観光客を世界に送り出した。習主席は、世界中に混乱と被害をもたらした、極悪の犯罪人と言って間違いない。
← 酒井信彦 著『虐日偽善に狂う朝日新聞―偏見と差別の朝日的思考と精神構造』(日新報道 2013/08出版)
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