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中国を忖度するローマ教皇

『月刊日本』2020年2月号 酒井信彦の偽善主義を斬る 2020年1月22日

 前回の本稿で、カトリック教会の性的虐待問題を報告したが、紹介できなかったこともあるので言及しておきたい。それは教皇の帰国直後の11月27日の朝日新聞紙面に出ていた、教皇の出身地アルゼンチンの事例で、イタリア人とアルゼンチン人の司祭が、長期の禁固刑の判決をうけたものだが、もっと詳しい内容が、11月26日の朝日のデジタル版に載っている。紙面で省略されていることはいくつかあるが、最も重要なのは、次の部分である。

 「この事件では、コラディ容疑者らの犯行を助けたとして、日本人の修道女コサカ・クミコ容疑者が17年に逮捕された」。つまりこの事件は教皇に関係するだけでなく、日本のカトリック教会とも関係がある。日本人修道女も関与しているのだから、日本人に知らせるべき情報であるが、朝日はこれを紙面では報じなかった。前稿の最後で指摘したように、朝日新聞の日本カトリック教会に対する明白な忖度である。

 さらにローマ教皇の訪日に関することで、極めて重要であるのに、ほとんど注目されなかったことがある。教皇は来日してから長崎・広島を訪問するなど、核兵器廃絶には極めて熱心に発言した。最後の方では核兵器のみならず、原子力発電など核エネルギーの平和利用まで、否定するほどになっていった。

 教皇は核兵器廃絶と言う、現実離れした問題に対して、異常に熱心であったが、アジアに来たにもかかわらず、アジアで現実に起きている重大問題に関しては、全く無関心であった。教皇来日当時における、アジアの重大問題と言えば、香港のデモと中国のウイグル問題であった。しかし教皇はこの二つの問題に、発言しようとはしなかった。つまり教皇による中国に対する、甚だしい忖度に他ならない。

 それどころか11月28日の共同電に基づく産経の記事によると、「訪問先の日本からローマに戻る特別機内での記者会見で、香港情勢について質問されたが個別の言及は避けた。世界各地に問題を抱える場所があるとして、対話と平和を求めると述べるにとどめた。いつ中国に行くのかとも問われ。『北京に行きたい。中国が大好きだ』と発言した」と言う。雑誌ウイル2月号のコラムで、湯浅博氏が言及しているが、「フランス紙『フィガロ』は、これを『偽善』との見出しを掲げ、『中国の機嫌を損ねないようにしている』と辛辣に批判した」ということである。

 中国に対する忖度と言えば、例の気候変動問題における、グレタさんの場合も、極めて顕著である。12月18日の朝日夕刊に、「好意的だった中国紙、グレタさん批判」という見出し記事がある。香港の活動家が、香港問題と温暖化問題を結びつけて、中国を批判したツイートに対して、グレタさんが好意的にコメントしたために、中国の環球時報がグレタ批判を始めたというものである。

 すでにネットでは、グレタさんが最大の温室効果ガス排出国である、中国を批判しないことが指摘されていたが、朝日新聞が「中国はこれまでは国営新華社通信がグレタさんの特集記事を配信するなど好意的だった」と明確に書いているのだから、グレタさんが中国を批判してこなかったのは、紛れもない真実だったわけである。この事実こそ、世界の人々が称賛する、グレタさんの言動がいかに欺瞞的なものであるかを、雄弁に語っているといえる。

 ローマ教皇の日本訪問については、朝日新聞12月1日の「社説余滴」に、郷冨佐子・論説委員による、朝日らしい教皇礼賛の記事がある。冒頭は「ローマ教皇フランシスコは、カトリック信者が少ない日本でも大変な人気ぶりだった。ミサが行われた東京ドームでは、信者以外からも『パパさま~』の大歓声を受けていた」とあり、結論部分は「軍隊も工場もないバチカンのトップが持つ最大の力は、モラルだと思う。(中略)『平和』という究極のモラルに向き合い、だれにも忖度せず、真っ当な主張を堂々と説いて回った。大きく注目されたのは、それが今の日本でとても新鮮に映ったからかもしれない」となっている。何と事実と相違した言説であることか。これが朝日の論説委員の実態である。

 「だれにも忖度せず」どころか、中国に対して完全に忖度しているではないか。つまり教皇フランシスコもグレタ嬢も、中国忖度と言う点で完全に共通している。教皇とグレタ嬢を絶賛する朝日は、中国忖度と言うことにかけては、広岡知男の「歴史の目撃者論」以来、社是として励行してきた。つまりこの三者は同類・仲間・お友達なのである。そして三者に共通するその本質は、フィガロが指摘するように、偽善そのものである。本稿が糾弾する、偽善主義の素晴らしい典型である。

 

sakai-book01.jpg ← 酒井信彦 著『虐日偽善に狂う朝日新聞―偏見と差別の朝日的思考と精神構造』(日新報道 2013/08出版)


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