Home > 寄稿 > | 月刊日本 > 世論は意図的に製造される

世論は意図的に製造される

『月刊日本』2021年1月号 酒井信彦の偽善主義を斬る   2020年12月22日

 11月28日の朝日新聞のオピニオン欄に、「真山仁の視線」の連載第18回が出ている。開戦記念日12月8日が近いからか、タイトルは「戦争とメディア」とあるので、どんなことが述べられているのか、興味を惹かれて読んでみた。

 大東亜戦争開戦の原因としては、外には日中戦争における欧米の対日批判、特に経済統制があり、内には軍部の暴走があったと指摘する。ただし「いずれも開戦の一因だったのは間違いない。だが、開戦理由の中で、見落とされがちな存在がある。それは、日本国民自身が開戦に加担していた事実だ」と断定する。

 そして戦前でも日本は民主主義国家であったのであり、「首相が、日本という国家の全ての決定権を握る責任者であった。したがって、軍人だけで勝手に戦争ができたわけではない。中でも国民意向を無視して開戦などありえなかった」と、さらに国民の意向と責任が強調される。

 ではタイトルにあるメディアの問題はどうなったのか、それは大東亜戦争をさかのぼる、満州事変の勃発に関して説明される。満州事変は、「実は中国東北軍への攻撃の大義名分を作るために関東軍が仕掛けた爆破だったが、それを報道した日本の新聞社は、当時、一社もなかった。逆に、事変に肯定的な報道合戦が始まる。その結果、部数減が続いていた新聞の発行部数は回復し、やがて急増する」と説明される。ここでやっとメディアとしての新聞の責任に言及する。

 しかし以上の前半の部分に続く後半の部分では、急に次のように言い出して、明らかに話の筋がねじ曲げられる。「新聞以上に、国民の戦意発揚を刺激したメディアがある。25年にスタートしたラジオ放送だ」と、同じメディアでも放送の方に矛先を転換してしまうのである。

 そしてメディア研究家である竹内昭子に取材して、「論理的な思考で報道する新聞と違って、ラジオは人の声を媒介に情緒に訴える。それが、国民の戦意発揚に大きく影響した」と語らせている。竹内は開戦当時13歳で、「ラジオの影響もあって軍国少女でした。当時は日本軍に正義があると誰もが信じていました」と述懐するのである。竹内証言が「新聞以上の」根拠であるらしい。

 次いで真山は、近衛文麿が1936年から45年に自殺するまで、日本放送協会の総裁を務め、自らの演説をたびたびラジオで生中継させ、戦意高揚を訴えたことを紹介して、「その鬼気迫る声を聞いて、国民の熱狂はさらに高まり、戦争に反対する国民を非国民だと非難するムードも巻き起こった」と述べる。

 さらに、「新興メディアが、国民を熱狂させる火付け役になるのは、何も戦争だけのことではない」、「21世紀に台頭してきたSNSもまた、世界中に大きな影響を及ぼし、既に新聞・テレビなど『オールド・メディア』の存在を脅かしている」と、現在のことに及ぶ。

 そして結論的な部分では、次のようにまとめる。

 「戦争にしても、政治の混乱にしても、〝主犯〟は軍人や政治家かも知れない。だが、忘れていけないのは、彼らが『好き勝手な行動』を出来たのは熱狂的に支持した世論(今で言えば民意)の存在があってこそだ。『戦争を始めなければ、平和は続く』と、誰もが知っていても、その戦争を後押ししている重要な要因が、世論であることを、我々はもっと強く肝に銘じるべきなのだ」。つまり戦争責任を、徹底的に世論・民意の責任にするのである。

 この記事の大きな見出しは、二つあって、前半部分が、「開戦支えた民意 礼賛報道が刺激した」であり、後半部分が、「新興メディア 熱狂あおる」である。ラジオ放送を指している後半の見出しはともかく、前半の見出しは明らかに間違っている。なぜなら民意すなわち世論は、自然に湧き出してくるものでは全く無い。世論は意図的に製造されるものなのだ。その製造装置こそ、報道すなわちメディアそのものである。真山の論説は、この根本的真実を、ものの見事に隠蔽している。

 つまり戦争責任を民意によるものだとして、メディアの責任をすり替え、さらにメディアの責任の中でも、ラジオを一方的に強調する。そのことによって新聞の戦争責任が、完璧に見逃されるわけである。近衛文麿が総裁であった日本放送協会は、曲がりなりにも「国営放送」であった。その点で新聞とは全く異なる。朝日・毎日は明白な民間新聞ではないか。その戦争責任はより一層大きいと言わなければならない。なお、朝日新聞の副社長であった緒方竹虎は、小磯国昭内閣の国務大臣になり、しかも新聞人でありながら言論統制の最高責任者である、内閣情報局協総裁になっているのである。

 

sakai-book01.jpg ← 酒井信彦 著『虐日偽善に狂う朝日新聞―偏見と差別の朝日的思考と精神構造』(日新報道 2013/08出版)


関連エントリー

Home > 寄稿 > | 月刊日本 > 世論は意図的に製造される

検索
Nationalism_botをフォローしましょう

Twitterをお楽しみの方は、
Followしてください。

リンク集
フィード購読リンク
QRコード
 
QR_Code.jpg

このブログを携帯でご覧になれます

ページのトップに戻る