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日本のリーダーたちは、国家意識・民族意識を喪失した

『月刊日本』2022年7月号 酒井信彦の偽善主義を斬る   2022年6月22日

 5月25日、JR東海の名誉会長・葛西敬之氏がなくなり、27日に公表された。翌28日の各紙朝刊には、死亡記事と「評伝」が掲載されている。その活動は実に多彩で、国鉄民営化を実現した中心人物であるとともに、東海道新幹線の発展を推進しただけでなく、原発事故後の国の原子力関係の委員なども務め、若者の教育にも熱心であった。

 その中でも葛西氏が優れていたのは、精神的なバックボーンが極めてしっかりしていたことである。各紙に共通して見られるのは、同氏と親しかった安倍元首相が「国士」と述べたことと、「保守派の論客」と言う表現である。

 毎日の記事によると、JR東海が死去を受けて出したコメントには、「国鉄改革の主柱として、JR東海の発展のけん引者として、曲げない信念と卓越した実践力を持ち合わせた人だった。確固たる国家観、世界観を持ち日本の発展に心を砕いていた人でもあった」と述べているところが、重要なポイントである。

 この葛西氏の国家観が端的に表れているのが、新幹線に関する信念である。産経の評伝では、「そして卓越した国家観を持った経営者でもあった。国鉄の民営化では日本の鉄道の将来を憂え、民営化の実現に奔走した。その後、自らリニア中央新幹線計画を主導したのも、大地震で東海道新幹線が被災した際の影響を憂慮したからだ」とあり、続けて「新幹線の技術を海外に売り込む際、当時の財界内で要望が強かった中国への技術移転には強く反対した。中国への技術流出を懸念したからだ。ビジネスの前に国の安全保障の姿をいつも考えていた」とある。

 また読売新聞の評伝は、「日本の誇る鉄道技術の海外輸出に積極的だった一方で、中国への輸出には反対の立場だった。記者との会食の席で『死亡事故ゼロの新幹線や、これから生まれ出るリニア中央新幹線は、日本の先人たちが磨き上げてきた英知の結晶だ』と強調。米欧や台湾など、知的財産権の概念が確立した国・地域に限って輸出することにこだわる姿勢を見せた」と記している。

 国士・保守の論客であると同時に、合理的な思考ができる人物であった。毎日の評伝には、「葛西氏は徹頭徹尾、合理的な人だった。旧国鉄の企画担当職員時代、自民党の『我田引鉄』と旧社会党の労働条件改善要求に翻弄(ほんろう)され赤字を拡大させた教訓から、JR東海に移ってからは徹底的に無駄を省いた」とある。

 続けてそのやり方が、JR東日本と比較して説明されている。「その象徴が東海道新幹線だ。JR東日本が2階建て車両など多様な新幹線を導入したのに対し、JR東海は『N700シリーズ』に一本化。極端に重かったり速かったりする車両を入れないことで線路の維持費を抑えつつ高頻度運行を追及した。この結果、航空会社との東京―大阪間の移動需要獲得競争に勝利。JR東海はJR随一の高収益企業に飛躍した」。

 葛西氏が中国への新幹線技術の輸出には否定的であったのに対して、JR 東日本が中心となって、新幹線技術の中国への輸出を行った。日本のほかにはドイツのシーメンスも参入した。中国がソ連・ロシアと異なる点は、人口の巨大さにある。シナ人が広大な侵略地域への侵略を徹底する凶器は、人間そのものである。この人間の移動・移住において、高速新幹線は圧倒的な威力を発揮する。新幹線技術を安易に輸出した日本人は、シナ人の侵略行為の最悪の共犯者であると言ってよい。

 日本人は50年前の日中国交回復以後、「日中友好」の美名に踊らされて、新幹線技術にとどまらず、工業の基幹産業である製鉄業など、数え切れぬほどの技術移転を行ってきた。それによって中共は急速な経済成長を遂げ、世界第二の経済大国となり、それを軍備に投入して、世界第二の軍事大国となった。そこで侵略国家たる本性を現して、日本の固有領土である尖閣諸島を「核心的利益」と言って、明らかな侵略宣言を行ったのである。一方日本は、1990年代の半ばから、まったく経済成長をしていない。

 朝日の記事によると、「財界主流とは、意見をたがえたこともあった。東京大学で同期だった三村明夫・日本商工会議所会頭は、『私たちは純粋な経済人だが、彼は一回り大きな独特な世界があった』と評した」とある。しかし一流の経済人であれは、単なる「純粋な経済人」であってはならないのである。純粋な経済人とは、単に金もうけだけに励む、エコノミックアニマルではないか。経済人に限らず、政治家も官僚も学者もメディアも、日本のリーダーたるべき人間が、総じて国家意識、さらには民族意識を喪失しまっていることこそ、日本がここまで没落してしまった、根本原因なのである。

 

sakai-book01.jpg ← 酒井信彦 著『虐日偽善に狂う朝日新聞―偏見と差別の朝日的思考と精神構造』(日新報道 2013/08出版)


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