『月刊日本』2022年9月号 酒井信彦の偽善主義を斬る 2022年8月22日
アジア歴訪中のペロシ米下院議長は、8月2日に台湾に到着、翌3日午前に蔡英文総統と会談した。この下院議長の台湾訪問は、1997年以来25年ぶり。自由と民主主義を破壊続ける、ネオナチ国家・中国に対抗する強力なメッセージを発した。中国は当然のように猛反発して、台湾を囲む六つの地域で大規模な軍事演習を展開した。
このペロシ議長の訪問については、バイデン大統領も賛成していなかったが、三権分立のアメリカであるからできたのだとかなどの、理由付けが行われているが、要するに大統領が黙認したということは、承認したことに外ならない。
中国はこのアメリカの態度にショックを受け、巨大な軍事演習を始めたのだが、ペロシ訪台に強硬に反対し続けた、習近平のメンツが丸つぶれになったことは、紛れもない事実である。隷中の朝日新聞ですら、3日朝刊1面で「訪問の中止を米側に再三警告してきた中国はメンツをつぶされた形で、米中対立がさらに深刻化する見通しだ」と述べているのだから、間違いない。
直接日本に関係することとしては、4日にカンボジアのプノンペンで予定されていた、日中外相会談が一方的にキャンセルになり、さらに翌5日のアセアン外相会議では、林外相の演説中に、中国とロシアの外相がそろって退席するという、卑劣なパフォーマンスを演じた。
5日の朝日新聞2面の「時時刻刻」欄によれば、このキャンセルについて、中国の「華春螢外務次官補は、同日の定例会見で『このような状況下で日本と外相会談を行う必要はない』としたうえで『台湾問題について日本は歴史的な罪を負っており、とやかく言う資格はない』と強く非難した。」という。
ついで「また、複数の東南アジア諸国連合(ASEAN)の外国筋によると、プノンペンで4日午前にあったASEANと日中韓の外相会議でも、中国の王毅国務委員兼外相が同席した日本の林芳正外相に対して声を荒らげ、台湾の現状について日本に歴史的な責任があると指摘したという。」とある。
さらに「台湾問題をめぐる習指導部の強硬な姿勢は、日米以外のG7参加国にも向けられている。華氏は会見で『今日の中国は、100年以上前にいじめられた昔の中国ではない。G7は列強の夢から目を覚まさなければならない』とし、『中国の核心的利益を尊重せず、さらに侵害しようとするなら、必ず関係に影響が出る』と脅した」という。
いずれも歴史問題を利用して、日本及び欧米諸国を脅迫しているつもりになっているが、まったくピント外れの議論というしかない。日本の台湾統治は過去の話であるし、欧米勢力の支那進出も全く同じである。不当な侵略支配ということなら、現在の中国こそ紛れもない現行犯である。シナ人は、チベット人・モンゴル人・ウイグル人を、徹底的にいじめまくっている。
まことにだらしないことに、日本政府は今回のペロシ訪問に関して、だんまりを決め込んだ。「台湾有事は日本有事だ」と明言した安倍元首相とは、まるで似ても似つかない姿である。8月4日の産経新聞3面の横見出しは、大きく「電撃訪台 日本は『沈黙』」であり、そのリードに「日本政府は3日、中国の軍事演習に対して懸念を表明したが、ペロシ氏の訪台への評価は沈黙を貫いた。9月に日中国交正常化50周年を控え、中国を必要以上に刺激したくないとの思惑がにじむが、自民党内では〝弱腰外交〟との見方が強まっている」とある。不当な言説には、反論しなければならないのに、政府はまるでやっていない。。
なお、朝日新聞は4日の国際面で、東大東洋文化研究所の佐橋準教授に、ペロシ訪台に否定的な意見を述べさせている。いわく「ペロシ氏の訪台で、米中関係は明らかに悪い方向に向かう。地域の安定を米国が壊しかねない。日本や台湾からすると、この訪問はあまり意味がない」。しかしこの地域の安定を、一方的に破壊し続けてきたのは中国であり、ペロシ訪台はそれを覆す重要な一歩である。したがって当然、台湾や日本にとって、巨大な意味がある。
翌5日の朝日新聞国際面のトップの見出しは、「台湾支援 強める米国」、「訪台『あいまい戦略転換への一歩』とある。本文には「米国ないでは最近、『あいまい戦略』では軍事的増強を続ける中国を抑止しきれないとの意見が目立つようになってきている」とあり、6月には、メネンデス上院外交委員長とグラム上院議員が、台湾への支援を大幅に拡大する、「台湾政策法案」上院に提出した。アメリカは、関係悪化を覚悟しており、ペロシ訪台は、同氏の人気取りのスタンドプレーではない。
← 酒井信彦 著『虐日偽善に狂う朝日新聞―偏見と差別の朝日的思考と精神構造』(日新報道 2013/08出版)
- 次の記事: 日本人の精神を蝕む「白痴的平和主義」
- 前の記事: 日中国交50年・歴史問題40年を、負の遺産として記憶せよ