- 2014年3月25日 01:33
- 月刊日本 羅針盤
『月刊日本』2014年4月号 羅針盤 2014年3月22日
二月二十一日、ホワイトハウスでオバマ大統領がダライラマと会見した。中共は強く反発して見せたが、これは明らかに完全な出来レースであった。アメリカは中共に配慮して、チベットが中共の領土であることに、ことさらに言及した。そして、ダライラマと中共との対話が促進されるべきことを、いつもの決まり文句として繰り返した。
要するにアメリカはチベットの独立を認めないのだが、これは政治的・歴史的判断として、明白な誤りである。私が本欄で何度も説明しているように、中共が侵略国家であることは、まぎれもない事実であり、チベットが独立すべきことは、世界の歴史の流れから言って、全く疑問の余地のない絶対的な正義である。
ただしここで注目しなければならないのは、ダライラマ自身が独立を放棄していることである。一九八八年すでに二十六年前に、自治が獲得できれば良いとして独立を否定した。つまり、ダライラマの独立否定の「中道路線」そのものが、根本的に間違っているである。チベット人の本心は、完全独立に決まっているが、ダライラマへの信仰心によって、それは隠蔽されてしまっている。
そもそもダライラマ個人に、全チベット人の運命を決定する権利があるはずがない。それだけではない。侵略国家・中共からの民族独立問題は、チベットのみの問題ではないのであり、東トルキスタンのウイグル人も、南モンゴルのモンゴル人も、シナ人の侵略からの解放を求めている。ダライラマの誤れる独立放棄は、これらの民族の独立も極めて困難にしてしまった。この明白な事実は、殆ど指摘されることがない。
ではなぜダライラマは、重大な誤りを犯してしまったのか。欧米勢力に使嗾されたことは間違いないだろう。その後、ノーベル平和賞を授与して聖人に祭り上げて、綺麗ごとしか言えない存在したのである。その目的は、欧米勢力と中共との間に障害として存在した、民族独立問題という本質を、単なる人権問題にすり替え、矮小化するためであった。それによって、中共と欧米の関係は、九十年代以降急速に改善する。
今回の会談でもオバマが、中共とチベットとの対話が促進されるようにと言っているのには、まことにふざけていると言うしかない。中共は独立放棄さえすれば、何でも話し合うと言っておいて、以後長年に渡りまともな対話など全くやっていない。そもそも中共とチベットとの対話は、一般社会で言えば巨大な暴力団と一般市民とが対話するようなものであり、まともな対話が成立するはずがない。ダライラマは独立放棄路線を、完全に放棄すべきである。論語の「過てばすなわち改むるに憚ることなかれ」の格言は、現在のダライラマにぴったりと当てはまる。
三月一日、中共の昆明で二十九人が死亡し百数十人が負傷する、大規模無差別テロ事件が発生し、ウイグル人独立派の犯行だと中共当局は発表している。しかしそうだとしても、それは極めて自然なことである。民族独立運動においてテロが起きることは、世界の歴史でいくらでもある。そもそもなぜテロが起こったのか。それはシナ人の残虐極まりない侵略があったためである。侵略と言う原因があったから、結果としてテロが起こったに過ぎない。結果としてのテロだけを問題にして、それをいくら非難・糾弾したところで、本当の解決になるわけがない。
無差別テロと言うと、今から四十年前の一九七四年八月三十日に起きた、三菱重工爆破事件がある。回顧されないから、すっかり忘れられているが、これがわが国で発生した、最大の無差別テロ事件である。極左勢力による爆弾テロであり、八人が殺され数百人が重軽傷を負った。翌日の朝日新聞は、ベ平連の吉川勇一に「こんなことをやった人間が悪いといってしまえば簡単だが、やはり背景を考えなければならない」と言わせたが、犯人の動機は、日本の軍国主義に反対するという、完全にトンチンカンなものであった。これに比較すれば、ウイグル人のテロは百万倍も必然性がある。
ダライラマの非暴力主義のために、テロができないチベット人は、焼身自殺によってシナ人の侵略を告発している。ただしベトナム戦争時の南ベトナム僧侶の焼身自殺と異なって、世界は全く冷淡に無視を続けている。今回のウイグル人による無差別テロも、単に中共政府・シナ人に対してだけではなく、侵略に目を瞑る続ける欧米先進国など、世界に蔓延する偽善と卑劣を、鋭く告発・糾弾しているのである。
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