- 2014年4月22日 13:03
- 月刊日本 羅針盤
『月刊日本』2014年5月号 羅針盤 2014年4月22日
ヘンリー・S・ストークス著、『英国人記者が見た 連合国戦勝史観の虚妄』という本がある。著者は一九六四年、二十六歳の時に『フィナンシャル・タイムズ』の特派員として来日し、以後、『ロンドン・タイムズ』や『ニューヨーク・タイムズ』の東京支局長を務めて、五十年に渡って日本に滞在している。
本書の最初に出てくるのが、アメリカに対する強い反感である。その原因として、ノルマンディー上陸作戦の際に、故郷の街を通過して行ったアメリカ兵の傲慢な態度が紹介されている。ただし、二つの世界大戦を契機として、イギリスから覇権国家の地位を奪い取っていった、アメリカに対する根本的な反感を、イギリス人は広く持っているのかもしれない。本書で言う「連合国戦勝史観」とは、言うまでもなく「東京裁判史観」のことであるが、東京裁判の虚妄を告発する視点の基礎には、この裁判を主導したアメリカへの反感があるのであろう。
また本書の中核をなしている部分は、三島由紀夫の行動の紹介であり、それによって東京裁判史観とそれに立脚した戦後レジームの虚妄を告発するという形になっている。著者には『三島由紀夫 生と死』と言う著作があり、その中の三島事件に関するかなり長い記述を引用して、「読者はぜひ私と一緒に、音読してほしい」と述べていることに、著者の思い入れが表れている。
三島の行動の紹介した後で、著者は次のように述べる。「日本はいまだに占領下に置かれている。日本が主権を回復しているとはいえない。アメリカの一部になってしまったか、卑しい属領のように見える。自衛隊は三島が檄で語ったように、アメリカの『傭兵』というだけでなく、アメリカ軍の補助部隊となってしまっている。実に、皮肉なことだ」。私が見るところ、これが本書の中で最も重要な一文である。
日本が主権を回復していないということは、私も常々考えてきたことであり、全く賛成である。その何よりの証拠は、軍事的主権は戦後一貫して喪失したままであることである。だから保守の人びとが、一九五二年に占領が終わったとして、毎年四月二十八日に主権回復記念の集会を開き、政府・自民党まで開催するようになったのは、極めて違和感を覚えてしまう。「記念」ではなく「祈念」であるべきである。
また著者は、「アメリカの傭兵というより、補助部隊になってしまっている」という。これは更に重要な指摘である。傭兵ということは「兵」であり、戦闘を行う軍人である。つまり現在の自衛隊はアメリカの傭兵ですらない。自衛隊の最大の弱点は、まさにこの点にある。具体的に言えば、訓練の事故によって多数の殉職者を出しているが、実際の戦闘を行って戦死者を出していない。したがって、憲法を改正すれば自衛隊は軍隊になり、現在の混迷した日本は魔法のように立ち直るという考えに、私は賛同する気になれない。
その意味で注目されるのは、現在問題になっている、集団自衛権の行使であろう。それによって、アメリカのために日本人が命を落とすのはいやだと考える人間は、保守の中にも多いかもしれない。しかし戦後七十年近くたって、実際の戦闘経験者が自衛隊の中に存在しないのだから、実戦を体験することは極めて重要である。更にそこで戦死者を出すことが、決定的に重要なのである。
現在、中共が軍事的膨張を遂げて、日本の尖閣諸島を核心的利益だと主張して、日本の領土に対する明白な侵略宣言を行っているのにかかわらず、「平和憲法」を守れという盲目的な反戦・平和主義はまだまだ根強い。朝日新聞は、四月七日の紙面で郵送による全国世論調査の結果を公表し、「集団自衛権について『行使できない立場を維持する』が昨年の調査の56%から63%に増え、『行使できるようにする』の29%を大きく上回った。憲法9条を『変えないほうがよい』も増えるなど、平和志向がのきなみ高まっている」と大喜びしている。このような現実を直視しない狂信的な平和主義こそ、極悪非道な侵略国家・中共による侵略を招きよせているのだ。
この虚妄なる精神状態を打破するには、アメリカの傭兵であろうが何であろうが、自衛隊が実際の戦闘に直接参加して、具体的に戦死者を出すことが最も有効な方策であろう。今やそのくらいのショック療法が必要なのである。そうすれば、いくら異常な憲法が存在していても、自衛官は軍人に、自衛隊は軍隊になれるというのが、私の考えである。
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