『月刊日本』2019年9月号 酒井信彦の偽善主義を斬る 2019年8月22日
最近、吉本興業とジャニーズ事務所という、二つの巨大芸能プロダクションについて、色々と問題が指摘されている。ジャニーズはともかく、吉本についてはまだまだ尾を引いているようだ。この芸能プロダクション問題は、結局、根本的にメディアの腐敗堕落から発しており、メディアは自己の暗部を隠蔽している。今の日本では、経済二流、政治三流という表現があるが、メディアはさらに下の五流以下と言える。
メディアと言っても芸能プロダクションと直接関係があるのは、放送メディアであるが、近年における放送メディアの堕落ぶりは、余りにも異常である。これは平成時代になって、一層顕著になった。昭和時代はこんなことはなかった。
放送の重大な使命は、聴取者に対して正確なニュースを提供することであるが、ニュース番組が異常に劣化している。ストレートニュースがほとんどなくなり、極めて感情的にナレーターがしゃべり、かつそれに煽情的な背景音楽をかぶせる、ドラマ仕立てとなった。しかもその報道の基調が、虐日偽善的な偏向であり、メディア自身が、フェイクニュースの一大殿堂になっている。
純粋なニュース番組の外に、「ワイドショー」なる硬軟種々雑多な話題を詰め込んだ番組があり、これもエセ・リベラル風な虐日偽善的味付けで作りあげられており、テレビを見る時間の多い、高齢者層に影響を与えている。類似の番組に、池上彰による特番的なニュース解説番組があり、民放各局で放送されるが、偽善度はさらに強いようだ。
テレビ番組の一つの重要な基調が、「エセ・リベラルの虐日偽善」であるとすれば、もう一つの重要な基調は、「馬鹿笑い」とでも言うべきものである。純粋お笑い番組でなくとも、テレビ出演者は、とにかくゲタゲタとよく笑う。その典型と言えるのが、出演者がひたすら喋りまくる、「駄弁り番組」であるが、それがとても多いのは、極めて安易に番組作りができるからだろう。安易な番組と言えば、クイズ番組も異常に多いが、クイズの問題作りは外注できるからであろう。回答者は、素人を動員することもあるが、多くはいわゆる「タレント」が起用される。
地上波の外にBS放送もできたが、韓国ドラマを大量に放送し、特に目に着くのは「ショッピング」番組の多さである。民間放送は本来提供番組の中で、宣伝・コマーシャルを流すものだが、これでは番組自体が丸々コマーシャルであり、報道利権をあまりにも不当使用していると言わなければならない。
では例のプロダクション問題と、放送メディアの腐敗・堕落とは、いかなる関係にあるのであろうか。それはプロダクション所属のタレントが、大量に人材供給されていることである。つまり両者は切っても切れない関係にある。例えば吉本所属の漫才芸人を主体とするお笑い芸人は、本来のお笑い番組で出演することは極めて少なく、民放のあらゆる種類の番組に、出演者として登場する。その中でも重要なのは、番組を仕切る司会者である、キャスターをつとめる例が多々あることである。これは吉本などのお笑い芸人だけでなく、最近はジャニーズ事務所の若手男性タレントにも、よく見られるようになっている。
吉本問題は、結局この人材問題に帰結する。吉本に所属したい、お笑い芸人がなぜこれほど多いのか。それはお笑い芸人から出発しても、放送タレントとして成功すれば、高収入が得られるからである。成功を夢見て、薄給でも吉本興業にこき使われるのである。
今回の問題で全く指摘されないようだが、決定的に重要なのは、放送には極めて巨大なマネーがうごめいていることである。民放の場合は放送利権によって、NHKの場合は自動的に法律で入ってくる視聴料によって、ともに金満組織となっている。民放の職員の給料が高額なのは、よく知られている話だし、NHKもまた同様である。
最近のNHKで特に目立つのは、著しい民放化の現象である。つまりお笑い芸人を大量に出演させるようになってきた。また芸能人のギャラには、一般人と違って特に優遇された枠があるらしい。これは昔の芸人に対する「特別視」が、そのまま継続しているからなのであろうか。一部芸人の暴力団との癒着どころか、放送界全体がブラックマネーで、覆い尽くされているのである。
民放もNHKも、現在の放送人には、視聴者に良質の報道番組や娯楽番組を提供する熱意が、全く感じられない。とにかく、放送の時間枠を安易な手法で埋めているだけである。貴重な電波が浪費されているどころか、日本人を積極的に馬鹿にするために、使われているわけである。
← 酒井信彦 著『虐日偽善に狂う朝日新聞―偏見と差別の朝日的思考と精神構造』(日新報道 2013/08出版)
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