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メディアこそ真の戦争犯罪者

『月刊日本』2019年10月号 酒井信彦の偽善主義を斬る   2019年9月22日

 8月初めから、「あいちトリエンナーレ2019」が開催され、その展示の一部に多大の批判が寄せられて、急遽中止となった。それは企画展「表現の不自由展・その後」で、以前各地の展覧会で問題を起こした展示の数々を、わざわざ集めて再展示したものであった。

 多くの展示のなかでも特に批判が集中したのが、慰安婦少女像と昭和天皇の写真を焼却する映像に関してあった。この二つの組み合わせと言えば、直ちに思い出すのが、今から約20年前の年末に、東京で開催された、いわゆる「女性国際戦犯法廷」と称せられる、謀略裁判劇である。この裁判劇の正式名称は、「日本軍性奴隷制を裁く女性国際戦犯法廷」だが、ふつう正式名称で呼ばないのは、その凶悪性を隠すためである。

 ほとんど理解されていないが、この裁判劇の目的は、表看板とは全く異なって、慰安婦を救済するためではない。真の目的は、昭和天皇に戦争犯罪人として、有罪判決を下すことであった。東京裁判において、昭和天皇は裁かれなかった。それが悔しくて仕方がない人間が、東京裁判では取り上げられなかった慰安婦問題を利用したわけである。したがって裁判劇を企てた人間の考え方は、「東京裁判不充分史観」あるいは、「東京裁判でも未だ足りない史観」と呼ぶことができる。

 この裁判劇を企んだのが、朝日新聞出身の松井やよりであり、朝日新聞はこの裁判劇を大報道した。月刊雑誌で最も詳しく報道したのが、岩波の世界であり、週刊誌では朝日ジャーナルの後継誌である週刊金曜日であった。そしてテレビではNHKのEテレが裁判劇を取り上げたが、昭和天皇への有罪判決の部分については、放送できなかった。

 この裁判劇は、主催者が世界のメディアを呼んで、世界的に発信されたため、慰安婦問題はそれ以前に比べて、一挙に世界に広まった。それによりアメリカ議会などで、慰安婦決議が行われた。そしてアメリカでは、マグロウヒルの歴史教科書に、慰安婦は「天皇の贈り物」と明記されるようになった。

 ただし慰安婦を利用した、昭和天皇を戦犯としてでっち上げる謀略は、それほど成功しなかった。今回、この問題をメーンにした、企画展が計画されたのは、再度、昭和天皇に戦犯の汚名を着せる、一大謀略であるに違いない。企画展の実行委員5名のうちに、NHKの放送に直接かかわった、永田浩三が入っていることが、何よりの証拠である。

 今回の企画展は、「女性国際戦犯法廷」の再現であるから、朝日新聞は事前に大宣伝を行った。トリエンナーレの芸術監督・津田大介は、朝日新聞と関係が深く、現在論壇時評を担当している身内の人間である。したがって朝日は中止になったことを、猛烈に批判した。特に開催の当事者でありながら、「日本国民の心を踏みにじる」と、先頭に立って中止を要請した、河村名古屋市長に対して、8月6日の社説で、「権力の乱用に他ならない」「到底正当化できない」と、決めつけた。毎日・東京の社説も、朝日同様に中止に異を唱えた。

 これらと正反対なのが産経で、7日の社説で、「芸術であると言い張れば『表現の自由』の名の下にヘイト(憎悪)行為が許されるのか」「『日本国の象徴であり日本国民の統合』である天皇や日本人へのヘイト行為としかいえない展示が多くあった」と主張した。企画展自体が、ヘイトであると断言したことは、極めて貴重である。私も本誌で朝日新聞を、日本ヘイトの総本山だと、指摘したことがあるが。

 天皇はアメリカ占領軍によって、戦争責任を免れたのだが、天皇よりはるかに巨大な戦争犯罪を犯しながら、アメリカ占領軍によって、免罪にされた存在がある。それはメディア、新聞と放送である。具体的には、朝日・毎日とNHKである。総力戦であるから、国民の戦意を高揚させなければならない。その時に大活躍したのが、メディアであることは言うまでもない。メディアは決して、軍部の手先であったのではない。つまり軍部とメディアは、主犯と従犯の関係ではなく、ともに戦争の主犯であったのだ。

 戦時において、メディアは意思に反して、強制的に戦意高揚報道に駆り出されたというのは、真っ赤なウソである。メディアは、戦意高揚報道に自ら邁進していったのだ。その真の戦争犯罪者であるメディアが、まるで反省することなく、あいちトリエンナーレの企画展において、昭和天皇の戦争責任を追及するのである。これほど醜悪な精神的な腐敗堕落があるだろうか。それだけではない。企画展の中止に抗議する人間が、おびただしく存在する。日本民族は、ここまで落ちぶれ果ててしまったのである。

 

sakai-book01.jpg ← 酒井信彦 著『虐日偽善に狂う朝日新聞―偏見と差別の朝日的思考と精神構造』(日新報道 2013/08出版)


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