『月刊日本』2021年4月号 酒井信彦の偽善主義を斬る 2021年3月22日
今回のアメリカ大統領選挙に関連して、1月6日のアメリカ議事堂への乱入事件をもって、アメリカの民主主義が大きく傷ついたかのような言説が、日本でも盛んであるが、本当にそうだろうか。
この事件はトランプ大統領の煽動によって引き起されたとされるが、そうだとしても一番の疑問は、なぜ「暴徒」がやすやすと侵入できたかである。客観的な状況から言って、警備を意図的に緩めていたと考えても、まったく不思議ではない。
またこの事件で数人もの犠牲者が出ている。しかしこの犠牲者について、ほとんどと言って良いほど報道はない。一人は警官で、この警官については慰霊式が行われたが、他の人間はトランプ側なのであろう。したがって詳しい情報は、意図的に出さないのである。このうち一人は女性で、明白に警察の銃撃で殺されたのだが、初期に簡単に報道されただけである。
例のミネアポリスの、警官の警備で窒息死した黒人男性については、その名前はもちろん現場の映像まで、何度も繰り返して報道されたのと、なんという違いであろうか。「暴徒」であろうとなろうと、犠牲者に関して客観的な報道が行われるべきだが、まったく隠蔽されてしまった。
黒人の事件の場合は、それによって人種差別反対運動が、「ブラック・ライブズ・マター」として異常に盛り上がって、数々のそれこそ本格的な暴動が発生して、甚大な被害を与えたのだが、こちらの暴動の方は全く問題にしない。甚だしいダブルスタンダードを通り越した、巨大なデタラメであると言って良い。
だいたい議会への乱入・占拠事件など、世界的には幾らでも起きていることである。近年のアジアでは、台湾や香港で起きている。日本でも60年安保の際にデモ隊が国会の敷地に乱入しが、議場には入れなかった。この時、東大国史学科の樺美智子という女子学生が死亡した。デモ側は警備側による虐殺だと騒いだが、群衆の中で圧死したのである。それに対して、今回のアメリカ議会では、女性の犠牲者は警察によって、明らかに射殺されている。
そもそもアメリカは、そんなにお上品な国ではまったく無い。銃器がほとんど規制されていないように、西部劇の時代と本質的に変わらないのである。日本で言えば侍が帯刀していた江戸時代が、そのまま続いているようなものある。したがって、大統領の暗殺事件が、何度も起きても不思議ではない。
アメリカ・民主党は、この議会乱入事件を口実として、トランプ弾劾裁判をでっち上げ、そして物の見事に失敗した。トランプ弾劾裁判は、まず1月13日、下院で弾劾訴追し、2月9日に上院で裁判を開始したが、ろくな審議もせずに13日にはもう無罪評決を下した。
すなわち完全なる茶番劇であることは、あまりにも明らかだ。こんなふざけた弾劾裁判をわざわざやること自体が、議会襲撃などとは比較にならない、民主主義に対する冒涜である。この根本的な問題点を、産経を含めて日本のメディアは全く指摘しなかった。それは日本のメディアは、アメリカのメディアの完全な受け売りだからである。
今回の大統領選をめぐって、極めて明確になったのは。アメリカのメディアの著しい偏向・堕落振りである。議会乱入事件の後、1月20日のバイデン新大統領の就任式典には、トランプ派の襲撃を予想して、何万もの軍隊で警備したが、まったく事件は起きなかった。明らかにトランプ派の危険性は、誇大にメディアが捏造したものだったのである。
最近使われる用語として、MSMがある、「メイン・ストリーム・メディア」の略語である。新興のSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サーヴィス)に対して、既成のメディアを示す言葉であるが、特に世論を支配する主流メディアを指している。アメリカでは、この主流メディアが、今回は反トランプに結集した。以前からその傾向があったが、ついに本性を現した形である。
しかもツイッター社がトランプのアカウントを永久停止したように、SNSまでそれにあからさまに加担するようになった。「自由の国」アメリカの面目丸つぶれと言って良い。ナチズム国家・中国に大甘な、ドイツのメルケル首相にまで、公然と批判される始末である。
このアメリカの状況は、日本を考えるうえで極めて参考になる。メディアの腐敗・堕落は、日本の場合遥かに進んでいる。日本の主流メディアの特徴は、善人面して日本を貶めることに熱狂する異常体質にある。すなわち虐日偽善報道の垂れ流しである。こんな卑劣な虐日メディアがわが物顔でのさばり返っている国は、必然的に滅亡する運命にある。
← 酒井信彦 著『虐日偽善に狂う朝日新聞―偏見と差別の朝日的思考と精神構造』(日新報道 2013/08出版)
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