- 2011年11月21日 22:06
- 時評
約20年前、いわゆる「冷戦体制」が崩壊した。世界史的に見ても、戦後体制の一大転機であった。その時、東ヨーロッパの諸国の民主化が実現し、ソ連が解体して民族独立も実現した。民族独立は、チェコとスロバキアの分離、ユーゴスラビアの分裂にまで及んだ。民主化と民族独立は、進歩の潮流の目安であるから、ヨーロッパは歴史の進歩が推進された。そしてソ連の崩壊によって、アメリカは唯一の超大国となった。『歴史の終り』などという、怪しげな本が出されたのはこの頃であった。
歴史の当然の流れからいえば、「悪の帝国」ソ連が崩壊したのであるから、次はもう一つの悪の帝国である中共を打倒しなければならなかったはずである。中共はソ連と同様に、自由のない共産主義国家であり、異民族を強権支配する侵略国家であるからである。しかしアメリカは中共打倒に取り組まなかった。当時のブッシュ大統領は、1991年に湾岸戦争を戦い、イラクに圧倒的に勝利したが、これはベトナム戦争の敗北の記憶を癒すためだったのであろう。その10年後、今度は息子のブッシュ大統領が、9.11テロへの報復として、アフガニスタンついでイラクとの戦争に突入した。つまりアメリカは、もっぱら西アジアに集中して、東アジアへの対応は殆どおざなりになった。
この間に中共は急速な経済成長を遂げて、今や日本を追い抜いて、世界第二位の経済大国になった。しかもその経済成長の成果を軍備に投入して、世界第二位の軍事大国にもなってしまった。文字通り富国強兵の軍国主義路線を驀進してきたのである。その進出領域は、海上・航空のみならず、宇宙空間・サイバー空間に拡大している。
アメリカはこの中共による軍国主義の驀進を、全く阻止しなかった。そもそもその前提としての、中共の急速な経済成長は、アメリカとの共同作業であるとしか考えられない。自由なき共産主義国家の安価な労働力と、西側の資本と技術とを結合させて大量生産を行い、その安価な製品を西側諸国が大量消費をするという、巧妙なメカニズムの成立である。共産主義と資本主義の、醜悪極まる癒着関係の出現であると言って良い。この癒着関係がどんどん進行することによって、アメリカを始とする西側による、中共に対する人権批判は、どんどん尻すぼみになって行った。
アメリカが中共の軍拡路線目をつぶっているのは、アメリカ自身がそれだけ弱体化しているからである。唯一の超大国となった時が絶頂で、以後は明確に衰退に向かっている。したがって今後アメリカが中共と戦争することなど、全く考えられない。中共は軍備を増強しているだけでなく、アメリカ国債を大量に所有することにより、経済的な強力な武器も獲得しているからである。
以上のような歴史的な経過から判断すれば、今後アメリカが中共と厳しく対峙することなどありえない。したがって今回アメリカが東アジアに回帰したと言っても、それは一種のポーズであり、決して永続するものではない。いずれアメリカは更に衰退して、太平洋の東に退いてゆくに違いない。
そこで問題は我が日本である。自国の防衛をアメリカに頼りきって、真剣に考えてこなかった民族は、未だに防衛意識が眠ったままである。その証拠に最近の中共の凄まじい軍拡状況にも、全く警戒心を抱くことがない。民族精神が完全に骨抜きにされていると言わざるをえない。このような状態でアメリカが出て行けば、そこには中共の軍隊がやってくる。いやになるほど簡単明瞭な話ではないか。
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