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歴史は勧善懲悪劇ではない

『月刊日本』2012年1月号 羅針盤 2011年12月22日

111229.jpg 十二月八日が、真珠湾攻撃から七十年に当たるということで、何かと第二次大戦の回顧が行われている。ところで第二次大戦は、自由主義によるファシズムの打倒の戦いであると、性格づけられている。正義の戦争と言うことであり、善が悪を倒したという基本的な図式になっている。つまりこれは時代劇の作り方とそっくりであることが分かる。映画やテレビで見られる時代劇は、「勧善懲悪ドラマ」と言われる。したがって東京裁判史観は、「勧善懲悪ドラマ的歴史観」と呼ぶことができる。

 しかし実際の歴史は、時代劇のように単純ではないから、少し考えるだけで疑問になるようなところがすぐに出てくる。それをヨーロッパの第二次大戦について、考えてみることにしよう。ヒトラーによる戦争は、ユダヤ人大虐殺と言う「金看板」を取り除いてみると、それほど異常なものとは思えない。反対にこの戦争が大規模化して、甚大な被害を出す大戦争に発展した背景には、少なくともフランスとソ連という、連合国側の二国の重大な責任があったことが判明する。
 第二次世界大戦の原因は、第一次世界大戦の戦後処理にあった。ドイツを必要以上に罰したからであり、その典型は巨額の賠償金を要求しことである。ヴェルサイユ講和会議で、ドイツに最も厳しく対応したのは、フランスであった。これは第一次大戦でフランスが多くの犠牲を出したためである。またフランスは、ライン共和国設立の画策などで、ドイツの領土獲得の野心を抱いた。ここにまずフランスの責任がある。
 さらに一九三九年九月、ドイツのポーランド侵攻によって第二次世界大戦が始まり、フランス・イギリスは直ちにドイツに対して宣戦布告した。にもかかわらず、両国はドイツ攻撃をやらなかった。この間にドイツはポーランド侵略など東部戦線の活動に集中でき、軍事的に大きく成長することができた。
 ソ連至っては、第二次大戦の前期において、ドイツと同盟関係どころか、完全な「共犯関係」にあった。大戦の勃発直前に、ドイツと不可侵条約を結び、ドイツのポーランド攻撃に呼応して東から侵略して、ポーランドを分割したからである。十八世紀後半に起きた、ロシア・プロシア・オーストリア三国による、ポーランド分割の再現であった。
 四十年五月、ドイツの攻撃によって、フランス・イギリスとの戦争がようやく始まったが、フランス・イギリス側はたちまち攻め込まれ、パリが陥落して早くも六月二十五日には、フランスはドイツに降伏してしまう。ドイツがそんなに悪者であるなら、もっと懸命に頑張るべきであったのである。
 西部を平定したドイツは、その一年後四十一年六月に、独ソ不可侵条約を破ってソ連攻撃を開始する。それまでに、ソ連はポーランドを侵略するだけでなく、バルト三国なども侵略併合している。ソ連・ロシアでは、この独ソ開戦以後だけを、「大祖国戦争」と称している。
 アメリカは、四十一年十二月の日米開戦によって、ドイツと開戦することになるが、本格的にドイツと戦うようになるのは、四十四年六月のノルマンディー上陸からで、以後、東西からの挟み撃ちの形で、ドイツを降伏に追い込んで行く。
 以上の簡単な経過からでも、自由主義がファシズムを打倒したという、勧善懲悪ドラマの基本構図は成り立たないことが分かる。そもそもソ連は自由主義ではない。共産主義という全体主義であり、その点でファシズムと同一である。ソ連は共産主義と言う自由無き体制であったからこそ、苦しい戦争に耐え抜いた。それに対して、自由主義のフランスは戦争にはとても弱かった。したがってアメリカの参戦があっても、自由主義だけではドイツファシズムに勝利することは、不可能であったに違いない。したがってソ連が、ファシズムを打倒した最大の功労者と言わなければならない。
 しかしそのソ連は、バルト三国の再侵略だけでなく、ポーランド・ルーマニア・フィンランドなどに、領土を割譲させている。ヒトラーの犯罪としては、オーストリア・ズデーデン地方の併合など、ヴェルサイユ体制の否定が挙げられるが、スターリンも全く同じことをやっているのである。しかしソ連がナチス打倒に貢献したために、スターリンの犯罪は不問に付された。
 未だに歴史問題について、「清算」を迫られている日本であるが、この状況を克服するためには、今までのように個々の事実について弁解するだけでは不十分で、ヨーロッパを含めた第二次世界大戦の全体像について、通説の基本的欺瞞性を明らかにする作業に力を注ぎ、それを積極的に対外発信して行くべきである。

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