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尖閣奪還を牽制する朝日

※このタイトルは編集者によるものですが、あまり正確ではありません
『月日本刊』2013年1月号 羅針盤 2012年12月22日121231.jpg

十二月五日の朝日新聞朝刊に、なかなか面白い記事が出ている。台北の村上太輝夫記者によるもので、見出しは「台湾軍 幻の尖閣上陸作戦  1990年、関係者証言で明らかに」とある。約二十年前の、台湾による尖閣諸島への侵攻計画について紹介したもので、尖閣問題をめぐる一つの側面を知ることができる。ただしこれを大きく報じた朝日新聞の報道意図も、それなりに考えておく必要があるだろう。

 一九九〇年の十月に、台湾陸軍のパラシュート部隊の精鋭四十五人が選抜されて、突撃隊が編成された。「命じられたのは魚釣島に上陸し、日本の政治団体が建てた灯台を破壊、『中華民国旗』を掲げること。『漢彊演習』と名付けられた。演習というよりは実戦であり、軍事というよりは政治行動のようだった。漢彊は『中華民族の土地』を意味する」と村上記者は解説する。以下、ヘリコプターから飛び降りるという、作戦の具体的な内容と訓練の様子が説明される。しかし十一月上旬に至って、急遽作戦中止が命じられたという。
 台湾で尖閣への関心が高まったことが二度あり、最初が一九七〇年代の初めで、約二十年後のこの時が二度目だった。九〇年代に注目された原因は、日本が関係していると説明されている。つまりそれがこの侵攻計画の、直接の契機である。
 「『魚釣島の灯台を日本政府が正式な航路標識」として認可する』との話が広まり、猛反発が起きた。民主化で力をつけ始めた野党・民進党が『軍を派遣しろ』と国民党政権を突き上げた。同じころ、高雄市呉敦義市長(現副総統)が、スポーツ大会の聖火リレーを魚釣島で行うとして漁船を派遣、日本の巡視船に阻まれる事件もあった」。
 侵攻作戦を計画したのは行政院長の郝柏村で、「軍の指揮権は総統にあるが、実際は軍参謀総長を長く勤めた郝氏の手中にあったと言われ、李総統と対立していた」が、結局李総統が知って止めたらしいという。この背景説明は、真相を調査してきて最近本を出版した、軍事評論家の黄銘俊という人物によるものらしい。村上記者はこの人物に直接インタビューしている。ただし李総統が止めたことは、軍内部では以前から推測されていて、十一月の初めには、香港の週刊誌の取材に対して「馬英九総統は、『最後に李総統が止めたが、島に上陸しても問題は解決しない』と答え、作戦の存在を責任ある立場で初めて認めた」というから、確かなことのようである。
 村上記者がインタビューしているもう一人の人物は、この突撃隊の副隊長であった楊立という現在四十四歳の人物である。内容は侵攻計画そのものよりも、この人物のメンタリティーがなかなか興味深い。楊については次のように説明されている。侵攻計画で「相手が日本というのも奮い立つ一因だった。日本は戦略上、協力相手だが、歴史的には違う。かつて抗日戦の主力だった国民党軍を引き継ぐのが今の台湾軍だからだ。楊さんの両親は大陸出身。家では日本製品も日本の歌も厳禁だった」。つまり反日意識を持ち続ける台湾の人間もいるのである。
 この作戦については、七年ほど前に一度報じられたことがあるが、たちまち忘れられたという。しかし「今、再び表に出てきたのは、尖閣問題で主張しなければならない、という台湾社会の底流にある意識のゆえでもある」と村上記者は説明する。この記事の全体の調子は、副隊長の反日意識丸出しのインタビューを大きく取り上げるように、台湾側の言い分を一方的に紹介するもので、日本人の立場から尖閣問題に向き合うという姿勢は、全く見られない。その点まことに朝日らしい記事である。
 朝日新聞の報道意図は、結論部分で引用されている、黄銘俊の発言に明瞭に表れていると言える。それは「黄さんは警告する。『この問題で台湾が硬化して中国と連携するのを日本は恐れている。だが日本がしていることは、我々に連携を迫っているのではないか』」となっている。日本は総選挙が目前に迫っており、政権交代の可能性が高い。しかも自民党政権となって安倍内閣が誕生すれば、尖閣問題で以前よりはるかに積極的な行動に出るかもしれない。したがって、この時期に大きく紹介したのは、今後の日本側の動きを牽制する意図があると解釈すべきだろう。
 村上記者はこの侵攻計画について、「演習というよりは実戦であり、軍事というよりは政治行動のようだった」と述べているが、村上記者による記事も、報道というよりは政治行動のようである。

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