- 2013年5月31日 05:36
- 月刊日本 羅針盤
『月刊日本』2013年6月号 羅針盤 2013年5月22日
5月3日の産経新聞、「鼓動2013」の欄の「中国」の回で、河崎真澄記者が「尖閣の次『沖縄を返せ』主張」の見出しのもとに、中共の人間が公然と沖縄侵略を言い始めたことを、長文の記事で報告しており、これは極めて貴重である。
リードは、「米国から日本への1972年5月の沖縄返還を『国際法違反だ』として、『歴史的経緯からみて琉球(沖縄)の主権は、日本ではなく中国にある』などと”沖縄領有論“まで唱える動きが、中国でじわりと広がっている。中国政府の表立った主張ではないが、人民解放軍幹部や学識経験者らが論を繰り広げ、国営メディアも報道。チベット自治区をまねて、『琉球特別自治区』の設立準備を求める民間組織まで現れた」。
リードにある人民解放軍幹部というのは、国防大学教授で人民解放軍海軍少将の張召忠という人物で、昨年十月、中国中央テレビの番組で、「釣魚島は言うに及ばず琉球も中国に属している。琉球の独立支持、または中国の省として執政下に直接置く戦いをいま、各方面から起こすべきだ」と主張したという。
学識経験者というのは、上海の復旦大学日本研究センター副主任の胡令遠教授で、この人物には河崎記者が直接インタビューしたようで、中共では尖閣問題を切っ掛けに、この数年沖縄への関心が高まってきたと語った。また胡は論文で「日本は琉球の主権を有しておらず、中国の政府と学会、メディアは密接に協力し、琉球の主権と帰属問題の研究と宣伝を繰り広げよ」と述べているという。
その中でも注目すべきなのは、河崎記者は一応「怪しげな民間勢力の感情論」と言っているが、記事の冒頭で紹介し、直接のインタビューも行い、大きな写真も掲載している、趙東という人物の主張であり、シナ人の本音をもっとも端的に表していると言える。趙は貿易会社を経営しているが、広東省深圳に「中華民族琉球特別自治区準備委員会」の事務所を置いている。ポツダム宣言には、「日本の主権は本州、北海道、九州と四国、および連合国決定の諸小島に限られる」とあり、沖縄は含まれていないから、日本の主権が無いと、まずは法律論を持ち出す。
しかし「『そもそも琉球人は中華民族の血を受け継いでおり、ひとつの民族として国を分けてはならない』などと論理を飛躍させた。」と、河崎記者は説明する。この「中華民族」がキーポイントなのである。河崎記者は続けて、「沖縄をチベット自治区やウイグル自治区と同列に見る特殊な政治思想団体、と切り捨てることもできるが、趙氏らはいわば中国当局の暗黙の了解の下で、『中華民族の一部としての琉球特別自治区を設置せよ』との主張をテレビや雑誌、インターネットなどを通じて執拗に発信し、一定の指示も得始めている。昨年11月にスタートした習近平指導部が『中華民族の復興』を訴える中、趙氏らのサイトには『日本人は琉球を盗み取った』などと主張に賛同する中国人の根拠なきコメントが続々と寄せられている」と説明する。
チベット・ウイグルと同列に扱うことは、沖縄も尖閣とともに中共の「核心的利益」になったということであり、侵略の対象として明確に位置づけられた、ということに他ならない。中共ではインターネットは、国家権力によって厳格に管理されているのだから、それが野放しで流通しているのは、明らかに国家意志であることを示している。
シナ人はすでに沖縄への侵略の牙をむき出してしているのに、このような重大な事態になっていることが、日本ではほとんど報道されていない。情報戦で完敗していると言うよりも、それ以前に全く戦っていないのである。こんなことでは、一方的にやられ続けるだけである。
趙による「琉球人は中華民族だ」という主張は、そもそも沖縄の人間を琉球人として、日本民族から切り離すこと自体がとんでもない暴論だが、さらにこれを中華民族に編入することによって、侵略を正当化するのである。中共は五十六の民族で構成されているとするが、さらにそれはすべて一個の中華民族として統合されているとする。したがって中華民族に編入されてしまえば、その民族の土地は、中華民族の領域「中国」の一部になる。
勿論この論理は、沖縄のみならず日本そのものにも適用できることを、見逃してはならない。あるシナ人は日本人の学者に対して、日本人も倭族として中華民族に加わるべきだと言ったという。(安田喜憲『龍の文明・太陽の文明』PHP新書、2001年、166頁)
※追記。本稿は5月8日に書いたものであるが、その日の人民日報には、沖縄の帰属は未解決だとする、中共のシンクタンク・社会科学院所員二人の論文が公表された。公的にも沖縄侵略の意志を、露骨に表明したわけである。
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