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執筆者から読者へ 二村陽子さんへの回答

『月刊日本』2009年7月号

 本誌先月号で、私の一文に対する二村陽子さんの感想文を拝見した。二村さんは私に特に回答を求められているわけではないが、折角の機会だから二村さんの文章に関連して、今話題になっている、田母神論文への率直な私見を述べてみたい。
 二村さんは次のように言っている。「歴史認識といえば、『あの戦争は侵略だったのか否か』の話だという固定観念自体が、時代遅れで日本を弱体化させている。」私はこの見方に、基本的に賛成である。ただし田母神論文の中心テーマは、「日本は侵略国家だったのか」というのであるから、あの戦争だけでなく、より広く近代史全体への見方に関わるものだろう。田母神氏は結局、「日本は侵略国家ではなかった」と主張されているわけだが、私は「侵略国家でいいじゃないか」という考えである。

 侵略という言葉そのものの定義には、面倒な議論があるかもしれないが、世界の歴史を大観した場合、侵略が当たり前に行われてきたと考えて良いだろう。いわゆる帝国主義の時代には、帝国主義の列強が広大な植民地を領有していた。帝国主義国家すなわち侵略国家である。我が日本は、明治維新によって急速に近代化を成し遂げ、帝国主義列強の仲間入りに成功した。大日本帝国である。ただし大日本帝国はミニ帝国であり、世界の四分の一を支配した大英帝国に比べると、その面積は百分の一である。しかしともかく列強の末席に滑り込んで、第一次大戦後は、英仏伊と並んで国際連盟の常任理事国に成りおおせた。つまり当時においては、連盟に加盟しなかったアメリカも含めて、一流国家・先進国とは侵略国家だったのである。
 しかし世界史のルールは次第に変わって行った。すでに第一次世界大戦のヴェルサイユ講和会議で、ウィルソンの十四カ条として民族自決・民族独立の原則が打ち出され、東ヨーロッパに北はフィンランドから南はユーゴスラビアまで、一挙に八つの独立国が成立した。これらはドイツ・オーストリア・ロシアの三帝国が滅んで生まれたものである。そして第二次大戦後には、数百年来の植民地支配体制が崩壊して、アジア・アフリカに多数の独立国が誕生して、世界における国家の数は倍増した。敗戦国の大日本帝国はもちろん、戦勝国の大英帝国も滅んだのである。これが歴史の進歩というものである。
 世界史のルールの変更で、以前は当たり前に行われていたことが、悪いこととなって出来なくなる例は他にもある。例えば奴隷制度である。独立宣言で、「すべての人間は平等だ」といったアメリカは、その後約百年間にわたり公然たる奴隷制度が存在した。奴隷制度廃止後も、つい四十年ほど前まで明白な人種差別が行われた。しかし現在それは否定されている。
 しかし、イギリスもアメリカも、自らの罪深い過去を、反省し謝罪していると言う話は聞いたことが無い。日本の百倍の植民地を領有していたイギリスは、少なくとも日本の百倍は反省・謝罪しなければいけないはずである。したがって日本の過去を、身も世もあらず反省・謝罪する村山談話は、真に愚かなことである。しかしだからといって、それを完全に裏返して、「日本は侵略国家ではなかった」といっても、逆の意味で不正確になってしまう。言うとしたら田母神氏は、「日本だけが侵略国家だったのか」と言うべきなのである。
 それに関連して、台湾は植民地ではなかったとか、日本の統治は欧米人の統治と全く異なっていたという主張も、意味のあるものとは思えない。日本の支配は面積も小さく、期間も台湾五十年、朝鮮三十五年と極めて短期間であるが、歴史的・客観的に見た場合、欧米諸国の植民地とその本質において異なるものでは無い。だからこそかつての日本は、一流国だったのだ。
 田母神氏の主張は、同氏の独自のものというより、保守言論の主流的考えをまとめたものであろう。したがって同氏の主張が抱える問題点は、保守言論全体の問題点と共通するのであり、それだけ根が深いといわなければならない。近年の保守言論の動向を見ていると、安倍政権の挫折によって歴史問題の克服が極めて困難となり、一層考え方に柔軟性がなくなってきているようだ。そして過去にこだわる余り、現実を見る目が驚くほど鈍感になっている。
 日本は現在侵略国家ではないが、我々の目の前には巨大な侵略国家が厳然と存在している。中華人民共和国(中共)である。中共の真の脅威は、最近の空母建造計画など軍事力の増強にあるのではなく、侵略現行犯国家である点にある。中共の領土の半分以上は、チベット・ウイグル・モンゴル三民族の領土を、侵略併合したものである。第二次大戦後の世界に存在した二大侵略国家は、ソ連と中共であるが、約二十年前にソ連は民主化し解体した。しかし中共という「民族の牢獄」は、イケシャアシャアと存続している。日本は過去を反省しないから、再び同じ過ちを犯すに違いないと言われているのだから、現役バリバリの侵略国家が、更なる侵略に乗り出すのは、必然中の必然である。
 シナ人は歴史問題を利用することによって、日本に対する精神侵略という間接侵略にすでに成功し、現在は軍事力を使わない直接侵略である、人口侵略の段階に入っている。その実態は、朝日新聞の長期大型連載「在日華人」に明らかだ。シナ人の人口侵略は、日米安保条約によっても防げないが、アメリカはいずれ日本を見捨てて撤退し、シナ人による軍事侵略も完成するだろう。日本の保守派が、「日本は侵略国家だったのではない」と主張している間にも、亡国への行程は順調かつ急速に進行しているのである。

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