- 2009年11月22日 21:20
- 月刊日本 羅針盤
『月刊日本』2009年12月号 羅針盤
十一月九日は、東西対立の象徴とも言うべきベルリンの壁が崩壊した、二十周年の日に当たった。このベルリンの壁の崩壊を契機に、ヨーロッパで起こった一連の変化によって、世界的な「冷戦構造」が終結したと捉えられているが、そのような理解の仕方は、極めて大事なことを見逃した、明らかに間違った考え方である。
二十年前に生じた、ヨーロッパにおける変動の中心原因は、ソ連の共産主義体制の崩壊である。それに連動して起きた重要な変化は二つある。一つはソ連を含めた東ヨーロッパ諸国の、共産主義から自由主義への移行、すなわち民主化である。もう一つはソ連の解体、チェコとスロバキアの分離、ユーゴスラビアの分裂による、民族の解放つまり民族独立である。つまり重大な変化とは、民主化と民族独立である。
ではアジアにおいて、この変化は起きたのか。ある程度は起きたのだが、それは全く不十分・不完全なものであった。その変化がアジアで起きたのは、基本的にソ連の構成共和国であった地域だけである。コーカサス地方の三カ国と中央アジアの五カ国では、まがりなりにも民主化と独立が実現した。しかし東アジアではこの変化は起こっていない。中共はもちろん、北朝鮮もベトナムも共産主義のままである。唯一の例外として、モンゴルの民主化があるが、これは東ヨーロッパの諸国と同様に、ソ連の衛星国であったからである。
特に問題なのは、東アジアでは民族独立が全く実現していないことである。中共は多民族国家であるが、六十年前に他民族の土地を侵略併合して出現した、本質的な侵略国家である。その領土九百六十万平方キロメートルのうち、半分以上の五百万平方キロメートルは、チベット・ウイグル・モンゴル三民族の固有の領土である。まさに中共こそ解体され、抑圧支配されている民族が独立を遂げなければならないのだ。
実は民族の独立が、ヨーロッパばかりで行われ、アジアが無視されたことが、過去にもあった。それは第一次世界大戦の終結の時である。ヴェルサイユの講和会議において、アメリカのウイルソン大統領が提唱した、民族独立・民族自決の原則によって、東ヨーロッパで一挙に八つの独立国が誕生した。それらはロシア帝国・ドイツ帝国・オーストリア帝国に支配されていた諸民族の独立であり、出現したのはフィンランド・バルト三国・ポーランド・ハンガリー・チェコスロバキア・ユーゴスラビアの諸国である。しかしアフリカはもちろん、アジアにおいても民族自決・民族独立の原則は適用されず、歴史的課題として残された。その課題が解決されたのは、第二次世界大戦によってであり、世界の植民地体制が崩壊し、イギリスは戦勝国であるにも拘わらず、大英帝国を失ったのである。
しかしその後も異民族を支配する巨大な帝国は残った。それはロシア帝国が共産化したソ連と、第二次大戦後の民族独立の時代に侵略国家を作り上げた中共とである。そのソ連は先述したように、約二十年前に解体した。ロシアの面積は極めて広大であるから、まだいろいろな民族問題を抱えているが、独立はかなり進展したと言える。中共は反対に膨大なシナ人を侵略地域に送り込み、侵略をより完璧なものにしようと画策している。
つまり東アジアにおいては、冷戦時代の構造は、基本的に変化していないのである。ヨーロッパが変化したから、アジアでも変化したと錯覚しているだけである。ただし構造は変化しないにも拘わらず、アメリカと中共との東西対立は消滅した。これは中共が経済をある程度自由化するだけで、共産主義国家・侵略国家という本質は変化させていないのに、アメリカの方が変ってしまったからである。つまりアメリカが中共との経済関係を最優先して、非民主的な共産主義支配と、残虐極まりない侵略支配を、ともに容認してしまったのだ。アメリカは、世界の警察官としての本分をすっかり忘れ、中共という暴力団と手を握ってしまったのである。
ただしこれはアメリカだけでなく、ヨーロッパも同じである。ヨーロッパもアメリカも、旧ユーゴスラビアのセルビアに含まれていた、コソボの独立を強硬に推進した。これでユーゴスラビアは七つに分裂したわけだが、旧ユーゴスラビアの面積は、二十五万六千平方キロメートルで、コソボはわずかに一万一千平方キロメートル過ぎない。このコソボが独立できたのに、二百三十万平方キロメートルもあるチベットが独立できないのは、全く理不尽と言うしかない。またアメリカもヨーロッパも、セルビアの「民族浄化」を糾弾して、ユーゴ爆撃を行ったが、シナ人による侵略地域における、民族浄化すなわち実質的な民族虐殺政策には目を瞑っている。シナ人のチベット支配を、以前は人権問題として批難していたが、それも口先だけのものであり、最近はほとんどしなくなった。
その明確な証拠が、自由の国アメリカのブッシュ大統領と、人権の国フランスのサルコジ大統領が、聖火リレー問題が勃発していたにもかかわらず、昨年の北京オリンピック開会式に、雁首を並べて出席した事実である。すなわち欧米諸国が自慢する、民主主義も人権主義も、まがい物であることが証明されてしまったのである。アメリカは、悪の大帝国・中共を放置し、小物ばかりを悪の枢軸と呼んでいたが、中共の子分である北朝鮮に対しては、最近では極めて甘くなっている。かくして侵略現行犯国家・中共が、大手を振ってまかり通り、正義が無茶苦茶に踏みにじられた、暗黒の世の中になってしまった。
しかし現在における世界史的に解決しなければならない最大の課題は、現実の独裁国家・侵略国家である中共の民主化と解体である。決して、それはテロ問題でも、地球温暖化の問題でもない。かえってそれらの問題は、最大の課題を誤魔化すために使われているふしがある。しかもこの環境問題においてすら、二酸化炭素の最大排出国になった中共を野放しにしているのは、あまりにもふざけていると言うしかない。
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