- 2009年12月22日 21:03
- 月刊日本 羅針盤
『月刊日本』2010年1月号 羅針盤
朝日新聞の十二月六日朝刊、オピニオン欄の「世界衆論」のところに、「日米安保50周年 日本外交を問う」と題する、丸々一ページを使った座談会が載っている。出席者は、岡田克也・外務大臣、五百旗頭真・防衛大学校長、久保文明という東大教授の政治学者、藤田直央という朝日の記者、以上の四人である。
この中で五百旗頭氏が言っていることが、なかなか興味深い。日本の戦後は、「米国の力を日本の安全に活用した日米同盟があったので、軽軍備でやっていけた。米国はGDP(国内総生産)の4%以上を軍事費に投入し、今や平和な欧州も3%の軍事費を費やしている。日本は0・9パーセントで済んでいる。」「もし日米間に信頼が失われ、日米同盟が揺らげば、例えば核とミサイルで北朝鮮から脅かされる際に、日本の中では危機感が過熱し、『核武装が必要だ』とか『自前の完結した軍事能力がいる』となる。そうなれば欧州のように軍事費は3%水準になる。」
同じようなことは、元外交官も言っている。十月二十一日の産経新聞によれば、松山市で前日行われた、愛媛正論懇話会の講演で、前駐米大使でプロ野球コミッショナーの加藤良三氏が、「日米安保廃棄で日本がGDP(国内総生産)比で防衛費を諸外国並みとすれば、さらに数兆円規模の予算が必要になる」と言ったという。両氏が語っているのは、従来から常々言われてきた、安保条約のおかげで日本の軍事費が少なくて済み、経済的に助かっていると言う話である。それは戦後の経済復興の時期だけでなく、現在においてもそうだから、安保条約を維持すべきと言う論であり、これ自体は極めて陳腐な議論である。
日本の軍備について殆ど知識のない私が、両氏の話で特に感銘を受けたのは、軍事大国のアメリカはいざ知らず、諸外国並み、欧州並みの軍事費を投入すれば、「自前の完結した軍事能力」も持てるし、核武装もできるという指摘である。すなわちそうなれば、安保条約は廃棄することができるのである。五百旗頭氏は、その言動についていろいろ批判されている人物であるが、防衛大学の校長なのだから、日本の防衛についてデタラメなことを言っているわけはないだろう。高級外務官僚だった加藤氏も同じだろう。この指摘は私にとって、新鮮な驚きであった。
ただし私は以前から、安保条約のおかげで日本の経済が助かってきた、という説明には本当なのかと疑念を抱いてきた。経済成長期に、安保のおかげで経済に集中できたとされるが、例えば中共では、急速な経済成長と軍備の大拡張とは、立派に両立してきた。更に言えば、通説とは全く逆に、安保条約のために、日本の経済が甚大な被害を受けた側面があるのではないか。それは日本の経済が成長するにつれて、アメリカが警戒するようになったことである。一般にソ連の崩壊によって、アメリカの警戒対象が、ソ連の軍備から日本の経済に移ったとされるが、それ以前から日米経済摩擦は存在した。経済における対日攻撃は、プラザ合意、構造協議、年次改革要望書などと続き、小泉改革にまで至る。
問題はその攻撃に対して、日本の政治家も官僚も、たいした抵抗もできずに屈服してしまったことである。この戦後の経済的敗戦を、「第二の敗戦」と言っているが、第一の敗戦と大きく違うのは、戦わずして負けたということである。ではなぜだらしなく屈服してしまったかと言えば、それは国防をアメリカに完全に依存した、アメリカの保護国であるからに他ならない。つまり日米安保があったために、日本は甚大な被害を蒙って、経済的に敗北したと言うことになる。それが「失われた十年」どころか二十年であり、この間GDP は殆ど伸びず、一人当たりGDPで見れば、世界三位から一挙に二十位近くに急落した。
ところで現在の経済の苦境の原因を、小泉改革のみに求める人がいるが、それは明らかに正しくない。最も簡単に分かるのは、自殺者の数である。自殺者数が、それまでコンスタントに維持していた二万人台から、一挙に八千五百人増えて三万人台になったのが、一九九八年(平成十年)である。それに対し、小泉首相の登場は三年後の二〇〇一年の四月である。以後、自殺者数は現在まで、一貫して三万人台を保ち続けている。自殺の原因はいろいろあるとしても、その根本原因は経済の不況であることは、全く疑いようもない。
つまり不況の自殺者とは、端的に言って日米経済戦争における戦死者なのである。大雑把に計算すれば、毎年約一万人として、すでに十二万人になっている。これは日露戦争の戦死者、数万人の二倍の数字である。日本の政治家も官僚も、日本の国家権力を握っている人間どもは、日本国民の財産どころか生命すら守っていない。すなわち日本の安全を守るため、日本人の生命を守るための日米安保条約が、実際には日本人の大量の生命を奪っているのである。これほど愚かしい話は、世界の歴史上にも滅多にないであろう。
日本は日米安保条約を終了して、軍事的にも自分自身の足で立つべきである。先述したように、その費用は大してかからない。「今や平和な欧州」ですら出している程度の額なのである。民主党政権は、子供手当てに大金を投入しようとしているのであり、日本の真の独立のためなら、なんでもない金額ではないか。
真の独立ができない内に、アメリカが衰退し、中共が興隆すれば、ハンチントンが言ったように、日本はアメリカの保護国から、中共の保護国に転身するだけである。現に民主党政権は、それを構想しているようだ。鳩山首相の東アジア共同体にしても、小沢幹事長の大型訪中団にしても、その具体的な表れだろう。ただし中共の保護国になることは、アメリカの保護国と違って、その先があることを知っておかなければならない。私が以前から指摘していることだが、そこには日本国家の亡国と、更には日本民族そのものの滅亡とが待ちうけているのである。
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