- 2010年1月24日 09:05
- 月刊日本 羅針盤
『月刊日本』2010年2月号 羅針盤 2010年1月22日
日本の保守と言われる人々は、サミュエル・ハンチントンが、その有名な著書『文明の衝突』の中で、日本を独自の文明として扱ってくれたことを、とても高く評価して喜んでいる。その例はまことに枚挙に暇がなく、日本文明に言及する人は、必ずハンチントンの名前を出すほどである。一例を紹介すれば、『文芸春秋』二〇〇七年一月号の「文春 夢の図書館」と言う特集で、篠沢秀夫さんは、「日本の素晴らしさを伝える十冊」の筆頭に、『文明の衝突』を挙げている。
しかしハンチントンの、この極めて読みにくい本を実際に読んでみると、日本文明を積極的に評価しているとは、とても考えられないのである。独立の文明だとしているのは、トインビーなどの先人が言っているから、それに倣っているだけなのであり、独自だとしても、ハンチントンは否定的に評価しているのである。つまり日本は文明的に孤立していて、仲間がいないと言うのがその主旨である。
では、文明的に孤立していれば、政治的に独立的であるかといえば、ハンチントンの判定はそうではない。反対に日本は伝統的に、政治的に大きな勢力に追随する傾向が顕著だと、判定するのである。例えば近代においては、日英同盟で植民地大国・大英帝国についたし、第二次大戦後は日米安保条約によって、最大の強国であるアメリカに従った。その中間の戦争の時期にも、ナチスドイツと軍事同盟を結んだ。さらに前近代の時代には、大国であるシナと冊封関係を結んでいたではないかと、ハンチントンは指摘するのである。日本人は、特に保守の人々は、日本は朝鮮と違って、冊封関係を拒否して自立していたと考えるが、ハンチントンはそのように評価してはくれないのである。
以上のように日本と言う国を理解しているハンチントンは、今後の日本とシナとの関係を断定的に明言する。まずハンチントンは、この本が出された、今から十四年前、一九九六年の段階で、シナ・中共が強大化することを、明確に予測している。さらに一般的に言って、近隣に強大な国家が成長してきた場合、周辺国家が採る対応策は、基本的に二つあると言う。それがバランシングとバンドワゴニングである。バランシングとは、いわゆる勢力均衡であって、新興勢力と張り合うわけである。バンドワゴンとは、軍隊の先頭に立つ軍楽隊のことで、つまりバンドワゴニングとは、それに従って歩くことであり、すなわち従属することを意味する。日本は独力でシナとバランシングできず、アメリカの援助が必要だが、アメリカはそうしないだろうから、日本は必然的にシナに従属するとするのである。
しかもその兆候はすでに現れていると指摘ところが、極めて重要である。ハンチントンは、他人の言を利用しながら、次のように書いている。「アジアでのアメリカの役割が小さくなり、中国のそれが増大するにつれ、日本の政策もそれに順応するだろう。事実、すでにそれは始まっている。日中関係の基本的な問題は、キショール・マフバーニーの見るところ、『どの国が一番か?』ということだ。答えは明確になりつつある。『口にだして公言したり、了解を示してはいないが、まだ北京が国際的にかなり孤立していた一九九二年に、日本の天皇が中国を訪問したのは意義深いことだ』」(三六〇頁)
すなわち九十二年の天皇陛下御訪中は、日本がシナに従属する端緒と、世界的に見られているわけである。少なくともハンチントンの著作によって、そのような見方が世界中にばら撒かれたことは、間違いない事実である。とすれば今回の天皇陛下への、中共の習近平の会見問題は、より一層日本の対中従属が進行したことを、世界中に印象付けたと考えなければならない。いったん正式に断られたものを、蒸し返して会見を強要し、それを実現させてしまったからである。ハンチントンがこれだけ明言しているにも拘わらず、九十二年の御訪中の大失敗に全く学ばず、更に失態を重ね続ける日本外交の白痴性には、言うべき言葉もない。「天皇の政治利用」と言われるが、それは外国・中共による巧妙な天皇の政治利用であり、しかもそれによって日本の対中隷属度が、飛躍的に深化したのである。しかも日本人の殆どが、この問題の本質を全く認識していないのだ。
ハンチントンなど欧米キリスト教徒は、日本は独自の文明だと言っているが、シナ人は日本の独自文明説を、絶対に認めないだろう。シナ人は、日本は中華文明すなわちシナ文明に属すると、強固に信じているに違いないのである。そしてそれはシナ人特有の、極めて侵略的で犯罪的な、中華民族主義のイデオロギーと結びついてくる。つまり中共は多民族国家であるが、すべての民族は上位の民族概念としての、中華民族なのであって、チベット人もウイグル人も、中華民族すなわち中国人なのである。自己の意志に関係なく、勝手に中国人にさせられてしまうのである。それと同様に日本人も中華民族の一つ、大和族にさせられるだろう。中華民族の存在するところが、空間としての「中国」なのであり、日本も中国の一部となるのである。これが現在および将来における侵略を正当化する、シナ侵略主義の論理である。
ところでハンチントンは、将来(二〇一〇年に設定)の予想として、シナ人はイスラムと同盟してアメリカと戦うだろうと言い、また日本はシナ人に従属しているから、反欧米側になるとしている。「アメリカ、ヨーロッパ、ロシア、インドはこうして中国と日本とイスラムの大部分を相手に真の世界大戦に突入する」(四八四頁)。しかしこれは真っ赤なうそに違いない。アメリカとシナ人が戦争することなどありえない。可能性として高いのは、アメリカとシナ人が結託して、イスラムと戦うと言う構図であるだろう。近い将来この構図が急速に進展したら、中共がアメリカと同盟して、アフガン戦争に参戦することになるのではないか。
- 次の記事: ハイチの歴史から日本人が学ぶべきこと
- 前の記事: 朝日が報道するシナ人による人口侵略の実態