- 2010年5月13日 07:38
- 時評
赤の広場の軍事パレードには、ロシア軍だけではなく、旧ソ連の独立国家共同体の軍隊が参加し、ともにナチスと戦ったと言うことで、アメリカ・イギリス・フランスの軍も、初めて参加したのは、極めて注意すべきである。さらにロシアとはカチンの森事件という歴史的因縁のある、ポーランドの軍隊まで、65年ぶりに参加したと言う。
またこの式典・パレードには、25の国家元首が来賓として参列した。その中には、敗者がわのドイツのメルケル首相があり、ロシアとの間には歴史問題があるはずの、バルト三国やポーランドの首脳も含まれている。しかし最も異常なのは、対独戦争とは全然関係のない、中共の胡錦濤国家主席がこの中に入っていることである。しかも胡主席は特別に優遇されたらしく、写真で見ると、プーチン首相とメドベージェフ大統領に挟まれて、メルケル首相と胡主席が立っている。なおアメリカのオバマ大統領とイギリスのブラウン首相は、内政上の事情で欠席し、フランスのサルコジ大統領とイタリアのベルルスコーニ首相は、ギリシャ財政危機のために、直前に主席を取り止めたのだという。
ロシアの目的は、対独戦勝にソ連が貢献した歴史を、今の時点で最大限に利用することであるが、その中核は近年ポーランドやバルト三国から出されていた、歴史の見直しの動き封じ込めるためであった。朝日新聞の記事によると、「メドベージェフ大統領はあいさつで、『反ヒトラー連合を含めた統一の隊列は、平和を守り、戦争の評価の歪曲を許さない我々共通の覚悟の証しだ』と述べた」とある。この「戦争の評価の歪曲」について、朝日の記事はさらに説明している。「第2次大戦開始から70年を迎えた昨年、旧ソ連の影響下に長く置かれて反ロ感情の強いバルト3国や東欧諸国で、ソ連とナチスを同一視する批判が噴出し、ロシアが「歴史の歪曲だ」と反論する事態になった。今回は、そうした反ロ的な見方を封じる狙いがあった」
しかしこの式典に関して報じた朝日も他の新聞も、全く解説していないが、ナチス打倒におけるソ連の功績を認めることと、ソ連をナチスと同一視することとは、全く矛盾しないのである。ソ連・ロシアでは、対独戦争のことを「大祖国戦争」と呼んでいるが、この戦争はドイツによるソ連攻撃によって、1941年6月に開始された。第二次世界大戦は、ドイツのポーランド侵略で、1939年9月に開始されたのだが、ではソ連は39年9月から41年6月まで、一体何をやっていたのだろうか。
それは開戦と同時に、西から攻撃するドイツと一緒になって、東からポーランドを侵略していたのである。そこでポーランド将校団の大量虐殺である、カチンの森事件を起こした。さらにバルト三国を侵略併合し、フィンランドやルーマニアも侵略した。これらはすべて、ヴェルサイユ体制の否定であり、ナチスがやったことと全く変わりがない。つまりソ連が関わった第二次大戦には、明白に相違する第一部と第二部があるのであり、ロシアは第二部だけを強調して、第一部を全く隠蔽しているのである。こんなことは、世界史の年表を見れば、すぐに分かる。歴史を歪曲しているのは、明らかにロシアである。
しかしこのような歴史を隠蔽・歪曲する、メドベージェフ演説を、バルト三国やポーランドからの出席者は、黙って聞いていたのだろうか。そうだとしたら、それは余りにも情けないと言わざるを得ない。最近、ロシアとポーランドとの融和が伝えられ、パレードにはポーランド軍も参加したのだが、結局はロシアの圧力に屈してしまったのだろうか。またこのような邪悪な意図を持ったイベントに、アメリカ・イギリス・フランスの軍隊が初めて参加し、首脳も出席しようとしていたのは、極めて異様である。それではロシアによるあからさまな歴史の歪曲を、積極的に容認してしまうことになるからである。東欧諸国が弱気になった背景には、欧米諸国のロシアへの軟弱化があるのだろう。
ところで先述したように、この式典・パレードには、対独戦争と全く関係のない、中共の胡錦濤主席が列席していた。ここに今回の軍事パレードの、日本にとって最大の問題点がある。実は胡主席は8日にプーチン首相と、9日にメドベージェフ大統領と個別に会談している。そしてこの会談の主題は歴史問題であった。日本経済新聞によれば、胡主席はプーチン首相との会談で、「近年、いくつかの国によって第2次世界大戦でのソ連の貢献を抹消するため歴史を見直そうとする試みが行われている」と言い、歴史を歪曲するロシアに完全に同調した。さらに東京新聞によると、「プーチン首相は『われわれはファシズムと日本の軍国主義の壊滅に大きく貢献した』と語り」、それに対して胡主席は、「(対独、対日の)歴史の真実を守り抜くために連携を強める」(産経新聞)と応じた。つまり日本をナチスと完璧に同一視して、歴史問題で両者が協力して日本を攻撃し続けることを、明白に宣言したのである。
この会談については、朝日・読売・毎日の三紙は、全く採り上げておらず、出てくるのは産経・日経そして東京新聞だけである。東京新聞は、記事の見出しに「大戦歴史認識、ロシア中国と一致」とあって、意外に本質を捉えている。この三紙ともに、中ロの結託による日本の北方領土問題への悪影響を懸念しているが、そんな生易しい次元で止まるものだろうか。東京と産経は、ロシアが降伏文書調印日の9月2日を、「対日戦勝記念日」に制定する準備を進めていることに触れている。とすれば、ロシアは9月2日に、5月9日と同様な行事を行うことを考えているのではないか。
そして東京はさらに、「中国は九月三日を『抗日戦争勝利の日』と規定しており、六十五周年を迎えて、ロシアの動きが中国国内の反日感情を刺激する可能性もある」と、的確に指摘している。ロシア人にこれだけ悪知恵をつけられたら、中共が9月3日に、抗日戦勝記念の大軍事パレードを、北京の天安門広場で挙行する可能性は、極めて高いと考えなければならない。その時日本の総理大臣が呼びつけられ、欧米諸国の首脳も、アジア・アフリカ諸国の首脳まで、中共の外交力によって、全世界の首脳が参列するのではないか。さらにロシアの例に倣えば、諸国の軍隊も参加して、日本の軍国主義打倒を、盛大に慶賀することになるだろう。
この儀式によって、日本はナチスと全く同罪の犯罪者としての烙印を、世界的に完璧に押されることになる。しかもドイツ人は反省したが、日本人は反省していないと、永久に責められ続けるに違いない。その上、それをやられる相手が、現実に侵略と虐殺をやりまくっている国家であることが、例え様も無く不様であり無念である。ナチスと同一の犯罪を犯し続ける極悪犯罪者に、ナチスと同罪という、途方もない冤罪を着せられてしまうからである。
大東亜戦争はすべてコミンテルンの謀略であった、などと言っているうちに、ロシアの現実の謀略は、すでに日本に及ぼうとしている。日本の歴史問題を攻撃するのは、シナ人・朝鮮人だけだとされてきたが、実はかなり前からロシア人が加わっていた。しかも、ロシア人と日本侵略の本命シナ人が、歴史問題で完全に結託したのである。このことの重大な危険性を感じないとしたら、精神において日本民族は完全に滅んでいると言わざるを得ない。
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