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反核思想という偽善

『月刊日本』2010年6月号 羅針盤 2010年5月22日

100524.jpg 五月六日、原子力発電の高速増殖炉「もんじゅ」の運転が再開された。それは今から十四年以上以前、一九九五年の十二月八日に大量のナトリウム漏れ事故を起こして停止していたものが、ようやく再開されたのである。いくら我が国が世界で唯一の被爆国であるとはいえ、日本人の、と言うよりマスコミに誘導された一部日本人の、非科学的な核アレルギーのひどさには、つくづくあきれてしまう。そのために、再開までにこれほど長期の時間が、費やされたのであろう。
 ただし、マスコミは今回も難くせをつけ、金がかかりすぎる、成功するかどうか不明だ、うまくいっても実用化は四十年後だ、などと言っているが、やって見なければわからないのであり、愚かしい子供手当てで浪費するより、よっぽどましであろう。また高速増殖炉をやるのは、日本ばかりではない。フランスやロシアのみならず、後発の中共やインドすら、やろうとしているのである。
 実際には、日本の原子力発電は、極めて安全なものなのである。今までに日本の原子力発電には、それなりの歴史があるが、その間の事故による死者は、僅かに二人に過ぎない。その事故は、一九九九年九月三十日に、茨城県の東海村で起きた。株式会社JCOというウラン加工施設で、ウラン燃料を作っているうちに、核分裂反応が始まってしまった。そのために数百人が被爆し、直接作業をしていた人間が重態となり、一人はその年の十二月二十一日に、もう一人は翌年の四月二十七日に亡くなった。

 確かこのときには、バケツか何かで燃料を混ぜ合わせていたらしく、ずいぶん簡単なやり方で核燃料を作っているな、と感じた記憶がある。従ってこの程度の事故は、原爆製造を含む世界の原子力産業においては、何度も起きているが、秘密にされているのではないだろうか。とにかく原子力発電の事故については、マスコミの監視報道が異常に厳しく、それで重大事故が起らないとも言えるかも知れないが、何か起ったらすぐに原子炉を止めるので、日本の原子力発電の稼働率は、他国に比較して良くないらしい。
 一時は極めてヒステリックに、原子力発電の危険性を糾弾していた日本のマスコミ、とくに朝日新聞も、このところかなり軟化してきたようである。それは例の地球温暖化問題の対策において、原子力発電の有効性が注目され出したからである。また今まで否定的だった、ヨーロッパやアメリカも、積極的に推進する意向を示してきている。まして中共やインドなどの後発国は、爆発的とも言える原子力発電増大計画を立てている。そうなるとウラン燃料の奪い合いになることが予想され、それが今回の高速増殖炉「もんじゅ」を再開する、重要な理由になっているとのことである。
 そもそも文明生活には、それなりの犠牲が必要なのである。誤解を恐れずに言えば、文明の神様に対する、人身御供と言えるかもしれない。文明もいろいろあるが、もっとも分かりやすいのは、自動車文明であろう。自動車は極めて便利なもので、物資の輸送にも人員の移動にも、広範囲に使われている。近代的生活のためには、無くてはならないものである。ただし自動車文明を運営するためには、自動車事故による死者・負傷者という、膨大な人身御供をささげなければならない。
 日本でも以前は、一年間に一万人を越える死者が発生していた、この場合死者とは二十四時間以内に死亡した人間をいうらしいから、実際はもっと多数になるはずである。その死者が最も多かったのは、一九七〇年というからいまから四十年前、大阪万博が開催された年である。その数は、一万六七六五人。今はずっと減少して、昨年は四九一四人で、一九五二年以来五十七年ぶりに、五千人を下回った。これは事故対策が進歩したこともあるだろうが、基本的に日本の活力自体が減退したことの現れであろう。
 同じ交通文明でも、鉄道や航空機は自動車ほどの犠牲者を出していない。だからと言って、自動車の役割をすべて鉄道や航空機に代替させることもできない。代替できる場合でも、自動車を選択する人間も多いに違いない。中共やインドなど、これから自動車文明が本格的に開花する地域では、膨大な犠牲者が生み出されることは、全く疑問の余地がない。それでも人類は、自動車文明を捨てることは、明らかに不可能なのである。
 原子力文明も全く同じことである。そもそも日本の原子力発電所の事故を、ことさら心配しても始まらない。中共で今後続々と建設される原子力発電所で、旧ソ連のチェルノブイリのような大事故が起れば、死の灰は偏西風に乗って、日本列島にいくらでも降り注ぐに違いない。その時、朝日新聞や反核運動家たちは、激しく中共を糾弾する声を上げるだろうか。私は、絶対にやらないと確信する。
 実は原爆の被爆者は、日本だけに居るわけではない。原爆実験を行ってきた中共では、実験場のあったウイグル自治区に、多数の被爆者が発生した。近年、日本の科学者・高田純氏がそれを告発しているが、朝日も反核運動家も黙殺している。彼らの反核思想は、明らかに偽者なのである。

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