- 2010年6月18日 15:26
- 時評
この60年安保問題が、なぜこれほど盛り上がったのか。その原因は、まず安保条約があると戦争に巻き込まれるから危険だ、とする基本的理解があった。更に直接的には、国会における審議のやり方が強行採決であって、それが民主的ではないとの批判が極めて強かった。それが岸首相個人に対する憎悪となり、国会を取り巻いたデモ隊は、「岸を倒せ」と絶叫した。しかし私の考えでは、さらにもう一つ重要な原因があったのではないかと思われる。それは反米ナショナリズムである。当時は敗戦後まだ15年しか経っていない時点であり、左翼でなくとも反米意識はそれなりにあった。にもかかわらず、それをストレートに出しにくかったために、安保反対のエネルギーとして噴出したと、考えられるのである。
ところで、現在は日米安保条約に対する、日本国民の態度はどうだろうか。それはいわゆる左翼勢力も含めて、極めて容認的になっていると判断される。あれほど憲法第九条の護持にこだわっている、朝日新聞でさえも、安保改定50年にしては、驚くほど静であると言わざるを得ない。6月15日の紙面では、50年前にデモの中で事故死した、女子学生を回顧する記事ばかりである。それは朝日だけでなく、日本中がそうであって、安保条約そのものに対する、積極的な批判・糾弾は影を潜めている。
では現在ではなぜ、保守のみならずいわゆる左翼まで、日米安保条約に対して容認的になってしまったのであろうか。それは端的に言って、中共が日米安保体制に大賛成だからである。朝日新聞のオピニオン欄に、毎週火曜日に掲載されていた、「新世界 国々の興亡」というシリーズがある。主筆の船橋洋一の質問に、世界の識者が答える形式である。その第11回(6月8日)で、船橋の「中国は日米同盟システムをどう見ていますか」と言う質問に対して、北京大学国際関係学院院長の王緝思は、次のように答えている。「ほとんどの中国人識者は日米の戦略的同盟は続くと見ています。冷戦が終わり、90年代の台湾海峡危機が起った頃は、日本が米国圏から外れていくのではないかという懸念が表明されましたが、近年は落ち着いてきました。日米はいくつか問題を抱えていますが、多くの中国人は日米不安定化を欲してはいないでしょう。日米関係の動揺は中国の利益にならないからです」
つまり将来はいざ知らず現在においては、中共はかつてのように、安保体制を否定する必要は全く無い。それよりもすでに20年前に、日本の自立をこそ恐れていたのである。その基底には、私が以前から繰り返し指摘している、アメリカと中共との明白な結託関係、俗な表現をすれば癒着・野合が存在しているからである。朝日新聞は、日本の報道機関でありながら、外国の国家権力である、中共政権の完全な手先であるのだから、安保体制を容認するのは、これまた至極当然なのである。
鳩山民主党政権は、この米中結託関係が良く理解できず、その外交方針を「アメリカから中共へ」として、普天間問題に取り組んだが、当然失敗して、日本の対米中両属体制は、一段と強化された。そこで後継の菅新首相は、就任早々の所信表名演説で、「日米同盟は、日本の防衛のみならず、アジア・太平洋の安定と繁栄を支える国際的な共有財産と言えます。今後も同盟関係を着実に深化させます」と、明言したのである。この「国際的」の中には、中共ももちろん入っているわけである。
私は、民族主義者・ナショナリストであるから、日米安保体制を離脱し、軍事的主権を回復して、真の独立を獲得しなければならないと考える。安保体制にすがり付き、軍事的にアメリカに負んぶに抱っこの状態でいればいるほど、ますます自分の足で立てなくなる。そんなことを続けていれば結局、日本の国家としての衰亡に止まらず、民族そのものの滅亡に至るだろう。
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