- 2010年9月12日 18:15
- 時評
それによると中心地の広場で「大戦終結記念集会」が開かれ、軍事パレードもあった。とくに両紙に写真入りで紹介されているのは、サハリン州郷土史博物館の庭に展示された、日本軍の戦車の実物である。この戦車については、朝日新聞の記事が異常に詳しい。この戦車は「ハ」号軽戦車で重さが約7トン、前方に日の丸を描き砲塔部分に「士」の文字を書くが、この士の字は「士魂部隊」と呼ばれた戦車11連隊の十一も表すと言う。千島列島の最北端のシュムシュ島に残されていた、日本軍の戦車の残骸14輌の一つを運んできて、忠実に復元したものだという。そして朝日はわざわざ、復元担当者の「日本に対してあの戦争を思い出させるためではない」「戦争を繰り返さないための意志表示だ。心を込めて修復した」という言葉を引用している。
しかし写真を見ると、戦車の上には子供たちが上がりこみ、すなわち戦車を足蹴にして遊んでいる。これではシュムシュ島の戦いに命をささげた英霊が、積極的に辱められているとしかいえない。産経新聞は、この写真に「展示には旧ソ連の『対日戦勝』を誇示する狙いがある」とキャプションをつけているが、朝日のキャプションは、「展示された旧日本軍の軽戦車に子どもたちは興味津々だった」とあるから、要するにロシア人の側に立って詳しく報道したのであり、朝日のロシアへの迎合体質はあきらかである。
ただし朝日の記事で参考になることが、ないことはない。それはこの記念日の正式な名称が「第二次世界大戦終結の日」とされて、「対日戦勝」の文句が入れられなかったという、制定の途中の経緯である。歴史研究者のガリチャニ氏の説明では、「記念日制定には国防省とクレムリン内部に反対があった」。その理由は「国防省は第2次大戦終結を早めたのはソ連の対日参戦ではなく米国の原爆投下との観点から『勝利の日』に難色を示し、クレムリン内には5月9日の大祖国戦争勝利の意義が薄れてしまうとの懸念があった」だという。国防省の理由は自分よりアメリカの功績を認めるわけであり、どこまで本当のことなのか理解しにくい。クレムリンの理由のほうが、よほど筋が通っている。
結局、「極東重視のメドベージェフ政権は国の記念日に引き上げることを認める一方、『対日戦勝』の名称は避け、米英などと同じ2日を大戦終結の日とする形をとった」という。どうもソ連時代から、極東地方では9月3日を「対軍国主義日本戦勝記念日」として祝う伝統があったらしい。要するに今回から全国レベルで、9月2日が「第二次世界大戦終結の日」なったことは間違いない。そうすると第二次大戦の開始日が当然問題になるが、それは1939年9月1日にするしかないわけで、だとすればポーランド侵略やバルト三国併合が含まれてくる。クレムリンが反対した本当の理由は、41年から45年の対独戦争すなわち大祖国戦争だけに、限定しておきたかったからではないのか。
記念日の正式名称から「対日戦勝」の字句が除かれたと言って、今後ロシアによる歴史問題を利用した対日攻勢が、無くなるわけでは全く無い。今後それは他国を巻き込んで、一層拡大することが予想される。この点について朝日は全く報道していないが、産経はしっかり見ている。9月3日の産経には、「ロシアが対日戦争史観を軸に、中国などと日本包囲網を形成する動きもある。ロシアのブヌコフ駐韓国大使は2日の行事で日本による中韓両国の被害を強調」したとある。
さらに産経の9月10日の「対日歴史観で露中共闘」という見出しの付いた記事(遠藤良介記者)には、興味深いことが色々と出てくる。まず「在露中国大使館は2日、ロシアの新記念日に同調して『占領者日本に対する中国人民の勝利65周年』と冠する数百人規模の祝賀パーティーを開催し、ロシアの政官界や在モスクワ外交団の関係者が集まった」
また「サハリンでは今月2~3日、対日戦勝行事の一環で州主催の国際学術会議が行われ、『反日』色の濃い内容となった。この会議には中国や韓国、モンゴルなど7カ国から外交官や研究者が参加、在露英国大使館も第二次大戦の極東戦線でソ連が果たした役割を評価するメッセージを寄せた」。この参加七カ国の名前のすべては分からないが、中韓の外にモンゴルは入っているのであり、さらにイギリスまで首を突っ込んできている。
そして「ロシアのメドベージェフ大統領が今月末にも中国を訪問し、第二次大戦での中ソ共闘の歴史認識を再確認する方向で調整されていることが9日、中露関係に詳しい専門家の話で分かった」「元外交専門誌編集長のタブロフスキー氏によると、メドベージェフ大統領は、北京、上海のほか、日露戦争の激戦地だった大連・旅順口を訪問。第二次大戦での中ソ犠牲者に加え、日露戦争でのロシア人戦没者を追悼する行事に出席する見通しだ」とある。ロシアと中共が結託し、第二次大戦のみならず近代史の全体を対象とした、日本を悪者と決め付ける一大謀略は、着々と進展しているのである。
日本の外務省は、一体何をやっているのであろうか。
- 次の記事: 読売新聞による能天気で亡国的な社説
- 前の記事: 歴史問題を利用した日本のインフラ輸出に対する妨害謀略