- 2010年11月24日 09:27
- 月刊日本 羅針盤
『月刊日本』2010年12月号 羅針盤 2010年11月22日
国連地球生きもの会議が、十月十一日から三週間に渡って名古屋で開催された。私はこの会議の内容は良く分からないが、マスコミはかなり以前からこの会議の開催について報道していた。私が会議のキーワード「生物多様性」と言う言葉から思ったのは、では「人間の多様性」については問題にしないのかと言う疑問である。人間の多様性と言っても、いわゆる人種のことではない。人種は人間を生物として区分する目安であるが、人種は「混血」によって、幾らでも中間的な存在ができるから、極めて不安定なものである。したがって人間の多様性とは、「民族の多様性」に他ならない。一つの文化の担い手である民族が、人間の多様性を表現する単位である。現在の世界は、その民族の多様性が失われる危機に直面している。
私と同じような問題関心を持つ人間はいて、生きもの会議と連動して「先住民サミット」なるものが開かれた。十月三十一日の紙面で、朝日新聞が大きく報道している。そのリードの部分を紹介すると、「生物多様性を維持するには何が必要かを古代文明や先住民族の知恵から探る『世界SATO(里)フェスタ』が、国連地球生きもの会議(生物多様性条約第10回締約国会議)にあわせて愛知県で開かれた。メーン行事の一つ「先住民サミットinあいち2010」(15~18日)には、アイヌ民族をはじめ、台湾や米国、ニュージーランドなどから19の先住民族約40人が集い、言語や文化が破壊されている現状や、自然と共生してきた価値観を報告。生物多様性とは人や文化の多様性でもある、と訴えた」。そしてこの記事の見出しが、「民族にも多様性 共生の知恵集う」である。
19の民族が参加したとあるが、別枠で「先住民族サミットに参加した主な民族」として紹介されているのは8民族で、日本のアイヌ民族、台湾のアミ族、ネパールのシェルパ族、東チモールのアス・ロウ族、アラスカのクリンギット族、アメリカのナバホ族、グアテマラのマヤ族、ニュージーランドのマオリ族である。先住民族とはその歴史上、文明段階に達せず未開段階に止まった民族であり、したがって文字も持たず国家も形成しなかった。ただしマヤは文明段階に達したが弱体で、その文明は滅んでしまった。またシェルパと言うのは、ヒマラヤ登山を案内する職業だと誤解されていたが、実はチベット系の民族名で、シェルパは正しくはシャルパであり、チベット語で東の人と言う意味である。
ところでこのサミットでは、民族多様性の問題として、もっぱら先住民だけが取り上げられているが、現在の民族多様性の危機として考えなければならないのは、むしろ文明段階に達した民族の方である。サミットでは、この重大な問題が全く忘れられている、と言うよりも意図的に目を塞いだに違いない。中共で「少数民族」と呼ばれている人々には、決して少数でも先住民族でもない人々が存在している。具体的にはチベット人やウイグル人である。
しかも最も大切なポイントは、それらの民族を中共政権は、積極的に消滅させようとしていることである。日本人は理解していないが、中共で採用されている公式の民族理論では、民族概念が二重構造になっている。すなわちチベットやウイグルなど、中共を構成する各民族は狭義の民族であって、これを「~族」と表現する。そしてこれら五十六の民族すべてを包含するのが、広義の民族概念である「中華民族」である。つまり中華人民共和国は、中華民族として単一民族国家である。この中華民族は「中国人」とも言うから、中共の公的な用語法では、チベット人もウイグル人も中国人である。ただしこれはあくまでも建前であって、シナ人の本音では、シナ人だけが中華民族であり中国人なのである。つまりシナ人以外の「少数民族」は、基本的に生存する権利は無く、シナ人に同化吸収されて、消え去るべき存在なのである。
以上の民族理論は侵略を正当化する理論でもある。チベット人は自らの意思と全く関係なく、シナ人によって勝手に中華民族に編入され、中華民族の土地は中国の一部であるとして、侵略され併合されたのである。この理論は共産主義になってから作られたのかと言えば、そうではない。この理論を完成させたのは孫文であって、有名な『三民主義』の民族主義の部分に詳しく述べられている。孫文が狭義の民族概念を「~族」と表現したのは、先住民サミットで見られたように、一般に部族段階の集団を族と表現するからで、その存在を意図的に低めるために使ったのである。現在の日本人とくに学者やマスコミまでが、この最大級の差別用語を平気で使うのは、いかに基本的な思考能力に欠けているかを表している。また日本で使われている、「中国語」「中国人」と言う言い方は、非シナ人の存在を観念的に抹殺した、シナ人の本音に立脚した用語法であり、無自覚なままに、シナ人による侵略の共犯者になっているのである。
日本人が今のように愚かで、中華民族主義すなわちシナ侵略主義の脅威を認識できなければ、チベット人・ウイグル人が蒙っている悲惨な運命が、日本人にも襲い掛かってくるに違いないのである。
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