- 2010年12月16日 02:00
- 時評
ところでこの授賞式への各国の出欠状況については、途中でも変動があったようであり、現時点でも正確なことは、もう一つよく分からない。委員会が招待状を出したのは65カ国であるというから、世界全体の約200カ国と比べると、ずっと少ないことになる。これはノルウェーの首都オスロに大使館を置いている国々であるからである。このうち欠席したのは約三分の一、20カ国前後であるようである。
事前の情報で欠席を予定されていたのは、19カ国である(12月9日産経)。それは当事者の中共、反動化しているロシア、旧ソ連のウクライナとカザフスタン、アフリカのエジプト・スーダン・チュニジア・モロッコ、中南米のキューバ・ベネズエラ・コロンビア、西アジアのイスラム諸国であるパキスタン・アフガニスタン・イラン・イラク・サウジアラビア、旧ユーゴのセルビア、そして東南アジアのベトナムとフィリピンである。
実際に授賞式が行われたあとの報道によると、欠席は17カ国だという(12月11日産経・朝日)。つまり二カ国減ったことになる。これは12月10日の朝日に、「いったん欠席を表明したフィリピンやウクライナは参加方針に転じた」とあるからこの二国と思われる。ところが12月11日の朝日には、「『中国との関係重視』を理由に欠席を表明したセルビアは逆に、加盟を希望する欧州連合(EU)から憂慮を示され、直前に出席を決めた。フィリピンやウクライナも同様に参加に転じた」とあって、数が合わなくなる。これは、後に述べるフィリピンの動きが関係しているらしい。
この欠席国の顔ぶれには、色々と興味深い点が見られる。最近とみにソ連に回帰して中共と仲良くなってきたロシアがあり、キューバやベネズエラ、そしてイランなどは反米的性格から中共に同情的なのであろうし、自国内に深刻な人権問題を抱えていると言えば、かなりの国が含まれるであろう。しかし現在アメリカが軍隊を大量に投入して、懸命に民主主義を根付かせようとしているはずの、アフガニスタンやイラクが、欠席国に名を連ねているのは、まことに皮肉である。
さて、12月15日の産経には、「ノーベル平和賞授賞式欠席 中国に屈したASEAN」と言う見出しの、在バンコク・ジャーナリストである鈴木真なる人物の記事が掲載されている。この記事によると、東南アジア諸国の殆どは、中共への配慮から授賞式を欠席したと言う。この記事で取り上げられているのは、ベトナム・フィリピン・インドネシア・タイの四カ国であるが、フィリピンについては、次のように書かれている。「意外だったのは、東南アジアにおける自由と民主主義の旗手と自任してきたフィリピンが授賞式を欠席したことである。政府は表向き駐ノルウェー大使の『日程上の都合』を理由にしているが、政府高官は対中配慮の結果だと認める発言をしている」。フィリピンは欠席から参加になって、更に欠席に逆戻りしたようである。またインドネシアについては、「『世界第三の民主主義大国』を自負するインドネシアも授賞式を欠席した」とある。また、ASEANの中で出席を確認できるのはタイだけで、しかも出席したのは大使でなく公使だったと言う。
鈴木氏の記事で最も重要なのは、末尾の部分である。次にその全体を紹介しよう。「急速に台頭する中国を前に、日本ではASEANと手を結び中国に対抗すべきだと唱える向きがある。南シナ海全域を自国のものとする中国の主張には確かにASEAN諸国の警戒心は強い。しかし、ASEANは決して一枚岩ではないし、対抗するには中国は強大すぎる。今回の平和賞授賞式への欠席劇が示したのは、日本・ASEAN対中連合など空論にすぎないという現実である」。産経新聞の記者ではなく、在野のジャーナリストであるために、保守の側の綺麗ごとの論に終わらなかったのだと、私は評価したい。
今の日本人に最も欠けているのは、日本だけでもシナ人の悪と戦い抜くという、根本的な気概である。