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日本経済没落論

『月刊日本』2011年5月号 羅針盤 2011年4月22日

110423.jpg 三月十一日、東日本大震災が発生して、現在は津波被害と原発事故に眼を奪われている状況である。この甚大な被害に対しては、世界中から同情が集まり、国内でも「頑張ろう」との声が満ちている。とくにテレビCMでは、なぜか一般のCMが控えられて、公共広告なるものが、しきりに「みんなでやれば」と呼びかけている。元気付けの役割は、このCMや他にいくらでもある議論に任せて、私はこの大震災が今後日本の運命に何をもたらすかを、なるべく客観的に考えてみたい。

 本稿の読者は既にご存知かと思うが、私は以前から日本は基本的に没落の行程を歩んでいると考えている。今回の大震災は、その動きを一層加速する役割を果たすのではないだろうか。背後からドンと押されたようなものなのである。その動きはまず経済の面に顕著に現れるであろう。殆ど注目されることがないのが、極めて不思議なのであるが、日本経済はこの十数年全く経済成長をしてこなかった。そこに今回の震災であるから、その影響は極めて甚大であると考えなければならない。成長エネルギーに満ちている時であるなら、苦境を跳ね返せるであろうが、現在の日本はそうではない。
 まず大震災によって、東北地方に展開していた工業生産の拠点が、大きな被害を受けた。そこで作られていた部品が途絶したために、日本の他の地方に止まらず、世界的なレベルで、生産中止の状態が生まれているという。そこに追い討ちをかけているのが、原発事故に発した、電力の大幅な供給不足である。既に計画停電が実施され、今後は大幅な節電が予定されている。したがって工業生産における、今回の日本のダメージは、簡単に回復するのは難しいのであろう。そうなると、既に海外展開している日本の企業の中には、海外での生産を主にしたり、完全に海外に移転してしまうものも、かなり出てくるのではないだろうか。
 一方、この日本の生産ダウンの状況に対して、自分たちがその穴を埋めようと、考えている国々があるに違いない。すなわち震災特需狙いである。特需と言うと戦争の場合に言われるが、それは巨大災害でも同じことである。その意欲を燃やしているのは、日本の近隣国である中共と韓国であるだろう。現に、四月四日の産経新聞「環球異見」欄で、上海の河崎真澄記者が紹介しているところに拠れば、中共の新聞「第一財経日報」は、震災の復興需要で日本にものも売れるし、それだけでなく「世界への基幹部品や素材の供給先として日本の地位を一気に奪う可能性」もあると言い、東北地方のIT産業や自動車部品メーカーなど、「経営難に陥る日本企業」を中韓企業が買収する絶好の機会だと主張しているという。今の日本人は、こんな惨めな今後の展開を想定したくないかも知れないが、私は充分に在り得ることだと思う。
 日本経済没落論は、別にシナ人だけでなく同盟国のアメリカにもあるようだ。三月三十一日の産経新聞、ニューヨークの松浦肇記者による、「高まる東電批判 米国発株主代表訴訟も」と題する記事の冒頭は、次のようである。「『誠に残念ですが、日本は貧しい国になるでしょう』。米国経済会議(NEC)前委員長のローレンス・サマーズ米ハーバード大学教授が23日、ニューヨーク市内の講演で断言すると、会場が静まり返った。米国では、震災後の落ち着いた日本の社会秩序が評価される一方で、経済の先行きが懸念されている。」ただし、日本経済は十数年間成長していないから、かなり以前から相対的には貧しい国になっているのであり、日本をそんな国にした張本人の一人が、サマーズ当人であるのだが。
 なお、日本の大震災が世界史的な規模で与える影響、とりわけアメリカに与える影響に言及する記事が、朝日新聞の全文横組み別刷り版、グローブの四月三日号「先読み世界経済」欄に出ている。題して「東日本大震災が米国の中国依存を加速する」。筆者は、ペール・シュタインブリュック。ドイツ社会民主党の政治家で、二〇〇五年から〇九年まで、連邦政府の財務相を務めた人物である。
 それによると、大震災の影響は二つあり、第一は日本の財政支出が増加し、政府債務が更に膨張すること。第二は、日本は自国のために金を使わなければならないから、「以前のように資本を米国に輸出して、米国の政府債務や民間債務、経常収支の赤字を埋めることはできなくなる」。したがって「米国は最大の債権国である中国にもっともっと依存するようになるだろう。私が懸念するのは、この経済や金融面での中国への依存が、政治的な依存に変わる可能性があることだ」と述べている。
 ただし私としては、このシュタインブリュックの論については、二つほど異論がある。第一に、アメリカの中共に対する政治的な依存は、ずっと以前からから始まっていると言うべきである。現在ではアメリカのみならず、当のドイツを含めた西欧先進諸国も、中共に対して完全なエコノミック・アニマルになってしまっている。第二に、日本は大震災という非常時に直面しても、アメリカの負債を懸命に支え続けるのではないのか。日本にそれを拒否する主体性があるとは、私にはどうしても考えられないのである。

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