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アメリカの正義は死んでいる

『月刊日本』2011年10月号 羅針盤 2011年9月22日

110926.jpg 中東の独裁政治を打倒したとされる、「民主化」革命がチュニジア・エジプトなどで実現し、最近では八月二十三日に、リビアのカダフィ政権が崩壊した。なお本稿執筆時点(九月十日)では、カダフィの行方はいまだ不明のままである。
 ところでカダフィ政権の崩壊によって、今まで隠されていた「革命」の真相が、次第に明らかになってきた。例えば、九月一日からフランスの主導によってパリで開催された、リビア復興支援の国際会議を報じた、九月二日の朝日の記事によると、フランスを始とする参加各国は、リビアの石油権益の確保と、戦争で破壊された復興特需の獲得を狙って、露骨に動き出しているという。NATO軍などによる、反政府勢力への軍事的支援とは、別に民主化に賛同したからではなく、あくまでも利権獲得が目的であったのである。

 カダフィ政権の崩壊がもたらした重要な事実は、政権の公文書が流出したことである。それによって明らかになったことの一つに、中共によるカダフィ政権への武器売却がある。九月六日の産経、同日朝日夕刊によると、七月十六日と言うから比較的最近のことだが、カダフィ政権の軍事担当者が北京を訪問して、中共の国営軍事産業の幹部と会談したという。会談したこと自体は、中共の外務省の報道官も認めているから、間違いのない事実である。ただし報道官は、契約はしておらず武器は輸出していないと説明した。
 実は中共は以前から、リビアのカダフィ政権に対して、極めて深く関与していたようである。八月二十五日の朝日新聞に拠れば、中共によるリビアに対する投資額は総額二〇〇億ドル(一兆五三〇四億円)に達し、「石油開発や高速鉄道、住宅建設などの大規模プロジェクトを次々と請け負ってきた」。また今回の動乱のために、国外に退去したリビア在住の「中国」人は、三万五千人になるという。アメリカが凍結していた、リビア政権の資産が約三〇〇億ドルであるから、中共によるリビアへの投資が、いかに巨額なものであったかが分かるだろう。
 ただしカダフィ政権への武器売却は、中共だけがやっているわけではないようだ。九月七日の産経に載ったトリポリ発の共同電では、「リビアの反カダフィ派『国民評議会』の軍事部門『軍事評議会』の報道官は5日、同評議会は中国や東欧諸国、西側諸国の企業が『カダフィ政権に武器や情報機関員を提供していた証拠』を得ており、法的措置を検討していると言明した。ロイター通信が伝えた」とある。これらの国は、武器だけでなく情報機関員も提供している点は注目される。しかしここでは東欧諸国や西側諸国の、具体的な国名は示されていない。
 実は公文書の流出によって、アメリカとイギリスの諜報機関が、カダフィ政権に積極的に協力していた事実が明らかになった。米英のメディアの報道に基づく、九月七日の朝日の「カダフィ政権に協力か CIA MI6 反体制派弾圧」と題する記事には、米中央情報局(CIA)と英情報機関の対外情報部(MI6)は、「04年、反カダフィ派のイスラム組織『リビア・イスラム闘争グループ』の元指導者ベルハジ氏を、妊娠中の妻とともにバンコクで拘束し、リビアに強制帰国させた。CIAはこのほか、カダフィ政権による拷問のおそれを認識しながら、グループの関係者らを計8回、リビアに送り込んだとされる」とある。このベルハジ氏とは、現在ではカダフィ政権を倒した国民評議会の軍事部門のトップにいる人物であることは、誠に皮肉である。
 CIAとカダフィ政権との驚くほど親密な関係については、産経新聞では異なった角度からの報道が行われている。それは九月五日の「CIAテロ容疑者尋問 リビアへも委託か 前政権時代の文書 米紙報道」と言う記事で、「米主要メディアは3日、ブッシュ前政権時代に中央情報局(CIA)がテロ容疑者をリビアに移送し、リビア情報機関に尋問を委託していたことを示す文書がリビアで発見されたと伝えた。CIAはテロ容疑者をエジプトやヨルダンなどに移送し、拷問に近い尋問を依頼していたことが知られており、かつての宿敵だったリビアにも依頼していた可能性がある」とある。
 つまりアメリカは、テロ容疑者に対する拷問を使った尋問を、リビアにも下請けに出したと言うわけである。残忍な拷問で、自らの手を汚したくなかったのかもしれない。しかし他者に委託したところで、拷問による人権侵害の罪が、免れるわけではない。今回明らかにされた一連の事実は、自由の国・アメリカによる、凄まじいまでのモラル・ハザードを証明するものである。アメリカの正義は、もはや完全に死んでいる。

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