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シナの侵略宣言に気づかない日本

『月刊日本』2012年3月号 羅針盤 2012年2月22日

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 今からちょうど四十年前の一九七二年、二月二十一日から二十七日まで、当時のアメリカ大統領ニクソンが中共を訪問して、世界を驚かせた。アメリカと中共はその二十年前の朝鮮戦争で直接血を流し合い、その後厳しく対立する関係にあった。このニクソン訪中という出来事が、第二次大戦後の歴史の重要な歴史の転換点であったことは、今日の視点において考えてみると、より一層明確に認識することができる。それは現在の世界のありようを規定している、アメリカと中共の結託関係という国際構造が、その時に開始されたと言えるからである。

 ということは、現在完全な閉塞状態に陥っている、わが日本の没落の運命も、この時点からスタートしていると考えなければならない。特にニクソン訪中のショックによって、日本の外交は取り返しのつかない、巨大な失敗を犯してしまった。この年の佐藤首相の辞職による、新たな自民党総裁選に当たって、中共との国交樹立に熱心な田中角栄が選ばれ、7月に首相に就任した田中は、すぐ9月に中共を訪問し、29日には共同声明に調印して、日中国交が成立した。慎重の上にも慎重であるべき、国際条約の締結に当たって、驚くべき拙速外交が展開された。
 国交成立後の日中関係は、初めの内こそ「友好」の大合唱に終始していたが、一九八二年の第一次教科書事件で歴史問題が勃発した。日中共同声明に歴史問題という時限爆弾を仕込んでおいて、それを一機に爆発させたものであった。次いで第二次教科書事件、靖国参拝問題など、歴史問題は連続して勃発して、日本は脅迫され続けることになる。一方、中共は多額のODAを日本から引き出すなど、経済的には日本を最大限利用して、急速な経済成長に成功する。ここに日本は利用されるだけ利用され、しかも歴史問題で精神的に侵略されるという、「正常化」どころか、まことに異常極まる二国間関係が出現した。
 そして極最近、日本の中共に対する異常な隷属関係を、一段と進展させる事態が発生している。日本は排他的経済水域(EEZ)を明確にするために、その基点としての無名の離島に名前を付与する作業をしているが、それに対して1月17日の人民日報が、中共の核心的利益を犯すものであると抗議したのである。核心的利益とは、他者に対して譲れない絶対的利益を意味しており、それは従来チベット・東トルキスタンそして台湾が含まれ、最近南シナ海に拡張されていたものであるが、そこに尖閣など日本の離島が含まれることになったのである。
 つまりこれは、れっきとした日本の領土が、チベット・東トルキスタン・台湾と同一の存在になったことを意味している。チベットと東トルキスタンは、すでに中共建国の時点で侵略した地域であり、台湾は自分のものだと今後の侵略・併合を明言している地域である。したがって核心的利益であるとの発言は、これ以上ないほど明確な日本領土に対する侵略宣言に他ならない。この核心的利益の論理は、ナチス・ドイツの生存圏(レーベンスラウム)の論理にそっくりである。ナチスの生存圏はオーストリア・ズデーデン地方・チェコ・ポーランドと、次々に拡大した。核心的利益の範囲も、今後さらに沖縄本島・日本列島へと拡大するに違いない。
 しかしこの中共による侵略宣言に対する、日本側の反応は極めて鈍感であると言わざるをえない。このような問題に最も熱心なはずの産経新聞ですら、1月18日の国際面の雑報欄に小さく、共同電によって「周辺の無人島の命名は中国の核心的利益を露骨に損なうと非難した」と載せただけであり、一面トップで大きく報道したのは、離島の名称が内定して以後の、1月30日になってからである。朝日新聞に至っては、2月3日の国際面で三段見出しの小型の記事として報道したに過ぎない。しかも「日本の動きは危険な挑発になる」と言う、中共学者のコメントまでつけている。マスコミが鈍感なら更にその上を行っているのが政治家である。おりしも国会では防衛大臣の能力評価に大騒ぎをしながら、これほど明確になった中共の脅威を真剣に論議している様子は見られない。
 つまり日本は朝野をあげて、対外警戒心が見事に欠落しているのである。それは国交成立から十年後、一九八二年に開始された、中共による東京裁判史観の再構築である歴史問題による精神侵略に、完璧に屈服してしまったからである。かくて日本人は国家意識も、さらにその根底にあるべき民族意識も、完全に骨抜きにされてしまった。このような状態では、幾ら憲法を改正してもどうにもならないし、そもそも改正すること自体が全く不可能である。

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