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チベットの叫びを聞け

『月刊日本』2012年5月号 羅針盤 2012年4月22日

120423.jpgチベットで、僧侶による焼身自殺が続いている。最初の事例は約二年前に遡るが、昨年の秋以降顕著に増加するようになり、特に今年の二月・三月には驚くほど頻発している。その数は三月中旬の段階で約三十人に達するらしい。地域的にはチベットの東部に当たる、四川省や青海省が殆どで、年齢的には未成年を含めた若者が圧倒的であるのが目に付く。中には僧侶以外の俗人もあり、子持ちの主婦すらいる。

 僧侶による焼身自殺といえば、若い人々は知らないだろうが、ベトナム戦争中の一九六三年に、南ベトナムの首都・サイゴンで起きたものが有名である。それは当時のゴ・ディンディエム政権による仏教弾圧に抗議して、アメリカ大使館の前で敢行されたもので、映像がマスコミを通じて全世界に流れた。これは南ベトナム政府にとって大きな打撃となって、同政権は間もなく崩壊した。
 焼身自殺の目的は、それによって社会に政治的な影響を与えることにある。その点において政治的なテロと、基本的な性格は同一であると言える。ただし一般的テロが他人を傷つけるのに対して、焼身自殺は自分を犠牲にするのが異なるのである。今日、特に九・一一以後、テロは撲滅すべき悪であるということになっているが、そもそもテロは人間の歴史と共に存在しているものであり、戦争がなくならないように、テロも絶対に無くなるはずがない。
 この焼身自殺とテロとの中間に位置するのが、自爆テロであると考えれば良いだろう。自分の命を犠牲にすることを覚悟の上で、テロを実行するのである。九・一一テロ自体が、飛行機に乗って高層ビルに突入するという、典型的な自爆テロであったわけであり、その意味で当時のブッシュ大統領が、日本の神風特攻になぞらえたのは、あながち誤りとは言えない。最近、中共のウイグル自治区で起きた事件も、ウイグル人が自分は死ぬことを覚悟の上で、シナ人に対する襲撃を行っているのであるから、これも自爆テロの類型に属するわけである。
 ところでチベット人が、自らの命を懸けてチベットの窮状を世界に訴えているにかかわらず、世界の反応は驚くほど冷淡であると言うしかない。半世紀も前のベトナムでの僧侶の焼身自殺の時とは圧倒的な違いである。これは日本のみならず世界全体においても、明らかに見出すことができる顕著な現象である。その原因は、焼身自殺が発生する根本的状況を作り出している、シナ人によるチベット侵略と言う簡単明瞭な事実に、世界中が目を閉ざしているからである。すなわち世界のマスコミが騒がないし、特に政治家が中共政権に対して、極めて融和的になってしまっているからである。
 例えば日本では、民主党は野党時代にチベット議員連盟を立ち上げ、チベット問題に取り組むそぶりを見せていた。しかし政権を担当した現在、チベットの状況に対して、全く動こうとしない。中共の人権問題に厳しかった欧米諸国も、今や日本と同じになってしまった。やはりその大きな画期は、四年前の二〇〇八年、北京オリンピックの時である。聖火リレーに関連して、あれだけチベット問題がクローズ・アップされたというのに、自由の国アメリカのブッシュ大統領も、人権の国フランスのサルコジ大統領も、オリンピック開会式に雁首を揃えて出席した。
 そしてアメリカのオバマ大統領は、今年二月の次期実力者習近平の訪米の際、まさにチベットで焼身自殺が頻発している状況でありながら、それを厳しく批難した様子は見られない。続発するチベット人の焼身自殺は、中共政権に対する抗議と言うよりも、チベット問題に対する国際社会の無関心・無理解、特に先進国の政治家に対する、自らの命を代償にした、心の底からの抗議であると考えるべきである。
 欧米諸国にとっては、チベット問題は所詮他人事であるかもしれない。しかし日本にとっては全く違う。それは以前にも本稿で指摘したように、尖閣諸島が中共の核心的利益の対象と認定されたからである。チベット・東トルキスタン・台湾などと、全く同質の存在になったのである。アメリカは四十年前まで、チベットに対して強力な軍事援助を行い、独立抵抗運動を積極的に支援していた。しかしアメリカはチベットを裏切り、今や完全に見殺しにしている。日本もアメリカを信じて頼りきっていれば、チベットと同じ運命に陥るだろう。極めて容易に「想定」できることではないか。

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