- 2013年4月18日 22:41
- 時評
「主権回復を目指す会」は、文字通り現在の日本には主権が存在しないとの立場であるから、主権回復記念日という発想そのものと、特にその祝日化には、極めて強い疑問を抱いてきた。それについての私個人の基本的見解としては、すでに三年前に「『主権回復記念日』の重大な誤り」という文章を書いているので、ここでは繰り返さない。
政府は3月12日の閣議で、4月28日に「主権回復記念日」の式典を、政府主催で開催することを決定した。場所は憲政記念館で、天皇皇后両陛下も出席されるという。自民党は昨年の総選挙の際の総合政策集で、「政府主催で4月28日を、『主権回復の日』として祝う式典を開催」と明記していた。同じく開催することを約束した、「建国記念の日」や「竹島の日」の式典は「封印」したが、「主権回復記念日」の方は、一応今年限りということであるが、政府が主催する形で立派に行われるわけである。
また以前から「主権回復記念日実行委員会」によって行われてきた、「主権回復記念日国民集会」は、今年は「自民党主権回復記念日制定議員連盟」が共催として参加し、日比谷公会堂で大々的に行われるらしい。自民党の中で、主権回復記念日について最も熱心である人物は、党の税務調査会長である野田毅議員で、同議員が会長を務める「4月28日を主権回復記念日にする議員連盟」は、一昨年8月に4月28日を祝日にする祝日法改正案を衆院に提出し、昨年からの実施を企てたが、法案は成立しなかった。
また同議員は、3月21日の産経新聞の長文のインタビューの中で、「僕が式典を開催しようと明確に訴えたのは11年前に遡るんです。小泉純一郎内閣で(主権回復)50周年を迎えたとき。当時、自民党と連立を組む保守党の党首として出席した自民党大会で提案しました。会場の拍手は大きかったけれど、あのときは残念ながら実現しませんでした」と言っているから、年来の持論であることが明らかである。
さて、ごく最近4月15日に、日中協会会長でもある野田議員は、アジア調査会で「今後の日中関係」をテーマに講演を行ったが、ここで極めて重大な発言を行っている。同日夜の産経新聞の電子版によれば、野田議員は安倍首相の「価値観外交」を批判して、「中国から見れば『対中包囲網』だ。そういう言葉遣いはあまり利口ではない」、「言われた相手が反感や敵愾心を持つのは当たり前の反応だ。わが党内にもこぶしを振り上げて(価値観外交を)いう人がいるが、違うのではないか」と言ったと言う。党内きっての「親中派」というより「隷中派」の頭目らしい発言であるが、外交方針において完全に首相に対して、反旗を翻しているのである。またこの記事は、同議員が靖国のA級戦犯を分祀すべきと述べたことにも言及している。
ただしこの講演の最重要点をキチンと紹介しているのは、何と言っても毎日新聞の吉永康朗記者による記事である。新聞では16日朝刊、電子版は15日夜のもので、内容は全く同一である。重要かつ短文であるので、全文を三つに分けて紹介する。なおアジア調査会は、毎日新聞が作った組織である。
まず「自民党の野田毅・日中協会会長は15日、東京都内で開いたアジア調査会(会長・栗本尚一元駐米大使)主催の講演会で、『日中関係は靖国問題を残したまま明るい展望を描くのは難しい』と述べ、冷え込んだ日中関係改善には靖国問題の解決が必要だと訴えた」と、野田議員は現下の尖閣問題には眼を向けずに、なぜか靖国問題を強調する。
次いで、「野田氏は日本が侵略戦争を認めたことが日中国交正常化の原点だとし、『中国から見れば日本の対応が当時と全然違う。靖国神社へのA級戦犯合祀が決定的だった』と指摘。合祀を取り消すか、別の神社に移すことを提案し、自身が提唱した『主権回復の日』制定と『セットでやるしかない』と述べた」とあり、野田議員が主権回復記念日とA級戦犯分祀を、完全にリンクして考えていることが分かる。これだけでは、その関係のさせ方は良く分からないが、こんなことを発想する野田議員は、とんでもない馬鹿者であるのだろうか。
どうもそうではないようだ。吉永記者による記事の最後は次のようである。「さらに、『“右をもって右を制す”のが政治の常だ』と、保守派の支持が厚い安倍政権による解決に期待した」。シナには「夷をもって夷を制す」という有名なコトワザがあるが、この言はそれに倣ったものらしい。これはかなり核心を突いた発言であると言える。野田議員は結構頭が回る人なのだ。そうだとすれば、主権回復記念日の制定は、それ自体の非論理性に止まらず、日本のさらなる対中隷属に利用される危険性を秘めているわけである。
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