- 2011年8月27日 22:54
- 月刊日本 羅針盤
『月刊日本』2011年9月号 羅針盤 2011年8月22日
今から十四年前の一九九七年・平成九年と言えば、七月に香港返還があり、その直後からアジア経済危機が始まった年であった。その年の年初から、日本経済新聞に「2020年からの警鐘」と題する大型のシリーズ記事が掲載されたことは、どのくらいの人が憶えているだろうか。このシリーズは当時結構話題になったらしく、加藤紘一・自民党幹事長が国会で取り上げた。 ではこのシリーズ記事は、何がその特徴であったのか。それはこの記事が、日本の急激な没落とそれに反比例する中共の台頭とを、約半世紀後の未来、すなわち二〇二〇年の時点において、大胆に予測するものであったからである。つまり論述の基調が、我が国に対する徹底した悲観主義・ペシミズムで貫かれていたことである。それは第一部の表題が、「日本が消える」であったことに、端的に表現されていた。
この日本の将来に対する悲観主義的な見方は、その後に真剣に議論されることはなく、次第に忘れられてしまった。しかしこのペシミズムこそ、極めて鋭い指摘であった。今の時点で考えれば、圧倒的に正しかったのである。と言うよりも、中共が世界第二の経済大国・軍事大国であることは、二〇一一年の現在既に実現しているのであるから、それですら十年も見方が甘かったと言えるのである。
ただし私が本稿で紹介したいのは、二〇二〇年の未来予測ではなく、既に一九九七年当時において、日本の中共に対する無様な従属性が、「2020年からの警鐘」で明確に指摘されていることである。第一部の第七回のタイトルは、「隠された酸性雪―隣国に沈黙、増す脅威」とある。日本の日本海沿岸では、酸性雨ならぬ酸性雪が観測されているが、この原因は中共からの影響であることは、実際の研究から想定されていた。そして九六年に大蔵省が外郭団体・国際金融情報センターに委託した調査結果で、それが事実であることが判明したのだという。しかしその報告書は公表されなかった。
記事は述べる。「調査結果があるのに政府は沈黙し、中国に対し大気汚染物質の飛来を『外交の場で問題提起したことはない』(外務省)。中国政府の環境当局者も『日本への影響はまだ調査中』と言うにとどめる。ようやく最近、環境省は二〇〇〇年をめざした東アジア地域での酸性雨観測ネットワークづくりを中国などに呼びかけた。酸性雨の被害がいち早く顕在化した欧米での国際的な監視視システムをモデルにしているが、中国との関係上、台湾が参加を表明していないなど実現には多くのハードルが残る。」
私は本欄において、一月号で「口蹄疫ウイルスは黄砂に乗って」、八月号で「中共から襲来する大気汚染」と題して、中共からの公害問題を取り上げた。それはそれぞれ、最近の朝日新聞と日本経済新聞の報道によったものだが、それに拠れば、中共による公害問題に関しては、この十数年の間、改善のための努力が全くなされていないことが分かる。というよりもこの間に中共は急速な経済成長を実現したのだから、公害問題は一層深刻になっていると、考えなければならない。
これは少しも難しいことではない。素直に単純に考えれば、誰にでも容易に分かる。日本は高度成長時代に、深刻な公害問題が発生して、国民の健康が蝕まれた。そのために日本は多大な努力をして、公害を克服することができた。中共も急速な経済成長を遂げて、日本を抜いて第二の経済大国に成った。そこには日本同様に深刻な公害が発生している。しかも中共は日本と異なって、報道の自由が存在しない、共産党独裁国家であるから、重大な公害問題の報道を、幾らでも抑えることができる。したがって、公害の害毒はかつての日本を、遥かに凌ぐものになっていることは、全く疑問の余地がない。そしてそれが、偏西風に乗って日本列島に襲来して来ているのである。
ところで現在、東日本大震災による原発事故によって、放射能被害が大問題になっている。マスコミは、新聞・テレビはもちろん、週刊誌まで驚くほど大量の放射能報道に明け暮れている。私は放射能の危険性について全く知識がないが、マスコミの放射能への関心ぶりに対して、中共産の公害へ無関心ぶりには、全くあきれ果ててしまう。日本人の健康に被害を与えるという点においては、完全に同じであるのに、なぜこんな差別が出てくるのか。
これは要するに、放射能は国内問題であるのに、公害の方は中共産であるという、極めて単純な理由からなのだ。かつての日本の公害問題においては、日本のマスコミも熱心に報道した。とくに朝日新聞などは、泣いて喜ぶ大好きなテーマのはずである。しかし一月号で紹介したように、朝日は黄砂による病原菌の飛来について、科学欄で地味に報道するくせに、社会面などでは殆ど取り上げようとしない。
とすれば、今後大量に建造される中共の原発で重大事故が発生し、日本に大量の放射能が襲来しても、朝日は極めて遠慮がちな報道に終始するだろう。そして日本政府も、まともな抗議などできないだろう。かくして日本人が、多大の放射能の被害を一方的に受けながら、泣き寝入り状態に陥ることは、一〇〇パーセント想定できる。
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